「損益計算書(PL)が収支計算書と基本的に同じものじゃないんですか?売上から費用を引くと利益になります。これは収入から支出を引いたら残高になる収支計算書と同じものだと思いますが」
広く高い視点でビジネスを眺める
「おいおい、高橋君はもう30歳にもなろうとしているのに、まだそんなレベルで仕事をしているのか。損益計算書と収支計算書は全く異なるものだよ。じゃあ、もう一つ質問してみよう。会社にとって大切な数字は何だろうか?」
「もちろん、売上と利益です」
高橋は、この質問には自信満々に答えた。
「正解、と言いたいところだが、それも違う。確かに売上と利益は会社にとって大切な数字だ。しかし、事業全体のプロセスを考えれば、売上と利益はその一部でしかない」
「会社にとって、売上や利益より大切な数字があるんですか?」
「売上や利益より大切な数字と言うよりは、売上と利益の観点だけで仕事をしていると視野が広まっていかないと言ったほうがいいかもしれない。僕が高橋君を営業に出した理由を少し話しておこうか」
「ハイ、お願いします。異動の内示があったときは、石田さんに捨てられたのかと思いましたよ」
と高橋は言ったが、お互いに異動の理由がそんなことではないのはわかっていたので、2人は顔を見合わせて笑った。
「僕は高橋君に期待している。高橋君には一流のビジネスパーソンになってもらいたいと思ってる。一流になるには、目の前の仕事で成果をあげるだけでなく、ものごとを広く高い視点で眺められるようにならなければならない。そのための道具として会計はとても有効なツールだ。それに、会計を知らなければ、資本主義社会におけるビジネスの意味はわからない」
「大きな話ですね~」
「まあ、黙って聞け。これから高橋君はもっと大きな商談をするようになるだろう。そうなってくれば、営業の相手は部長や社長といったクラスになっていく。社内においてもやがてマネジャーになり、役員になっていくかもしれない」
「かもしれない、ですか…」
「そりゃそうだろう。そのクラスになると運もあるからな~」
「そりゃ、そうですよね」
「ただ、社内の職位とは関係なく、高橋君にはどこに出ても一流と言われるビジネスパーソンになってもらいたいと僕は思っている」
「ハイ。頑張りたいと思います」