逆替え刃モデルで成功したiPhone。
替え刃モデルをつくり出したジレット

 ビジネスモデル論については過去2回、取り上げました。

第82講「ビジネスモデル」とは何者か?
第83講「ビジネスモデル」はイノベーションの源か?

 各々で、ビジネスモデル論の歴史と意義とは何者なのか、その意義とは何なのか、について述べました。ゲームソフトで世界ワン・プラットフォームをつくり出した任天堂(ファミコン)、ダブル・プラットフォームのアドビ(PDF事業)、垂直統合&世界ワン・プラットフォーム&逆替え刃モデルで成功したアップルのiPhoneなどを事例として、取り上げました。

 アップルは当時のビジネスモデルの常識を、ことごとく打ち破ることで唯一無二の大成功を手にしました。

・垂直統合モデル:主流の水平分業でなく、販売店(アップルストア)や電子部品(コア・プロセッサ)にいたるまで、可能な限り自社で行った

・世界ワン・プラットフォーム:国ごとキャリアごとの差をOSで吸収し、かつ、OSの無料アップグレードを続けることで、基本的には事業者がすべてのiPhoneに同一仕様のサービスを提供できるようにした。

・逆替え刃モデル:安く売って後で儲ける替え刃モデルでなく、「ハード本体は高く」して、「継続サービスである音楽ソフトや主要アプリは無料か安く」して儲ける逆替え刃モデルを採用した

 しかし私たちはそもそも、収益モデルの中でも代表的な「替え刃(Razor and blades)モデル」とは何かを理解しているでしょうか。

 その名の通り、替え刃モデルは交換式カミソリを発明したジレットから来ています。その成功は今に続いていますが、アイデアや特許一発で始まったわけではありません。そのビジネスの立ち上げには9年もの時間と努力が必要でした。

新しい収益の仕組み「替え刃モデル」を実現した
キング・ジレットの執念

 ビジネスモデルの歴史上、「顧客と提供価値」や「ビジネス・ケイパビリティ」の革新は多く存在しますが、「収益の仕組み」の革新は滅多に誕生しません。

 20世紀最初の年に、キング・ジレット(King Camp Gillette、1855~1932)が「本体でなく使い捨ての替え刃で儲ける安全剃刀」を特許申請し、1903年に商品化します。これこそ、収益の仕組みを大きくシフトさせたビジネスモデル革新でした。

 発明一家の子どもとして育ったジレットは、行商人として働きながらもいろいろな工夫をして、特許をとるような人物でした。

ジレットの“替え刃モデル”は、<br />ただのアイデア一発ではない<br />~「ビジネスモデル全史」【前編】

王冠メーカー(クラウン・コルク & シール(*1)で営業担当として働いていたとき、ジレットは、自分が営業する商品が、一瞬だけ使われて捨てられていくさまを見て思いました。「使い捨てだからこそ、顧客はまた買ってくれるのだ」と。

 王冠を発明したのは、まさにその会社の社長であるウィリアム・ペインター(William Painter, 1838~1906)でした。彼もジレットにアドバイスします。「君も、一度使ったら捨てられてしまうものを発明しろ。そうすれば客が安定するぞ」

 ジレットは四六時中、そのことを考え続けます。

*1 現在はCrown Holdings。ペインターは1891年に王冠を発明して特許を取り、翌年会社を立ち上げ、コカ・コーラなどに納めた。