一方で戦争があり、他方で豊穣な音楽が生まれます。

 ここに収録された音楽の共通点は、自由の息吹に溢れ、爽快な一陣の風を感じさせることです。長調でも短調でも、アップビートでもスローな曲であっても。こんな素敵な音楽が生まれていた一方で、ベトナムでは戦争が続いていた訳です。この二つの現実の結節点にいたのがロビン・ウィリアムズ扮する従軍DJクロンナウアーでした。因みに、このDJは実在の人物で、1964~65年、サイゴンに勤務していました。

 泥沼化していくベトナム戦争ではありましたが、そこにいる人々は庶民であれ兵士であれ、絶望しているだけではありません。力強く生き抜くのです。そこにこそ未来への希望が託されています。

 映画の最後に流れるルイ・アームストロングの“この素晴らしき世界”(本コラム第16回参照)のおかげで、映画の後味が変わります。サントラ盤末尾に収録されていますが、聴き終わった後に、勇気が湧いてきます。

出会いと別れ、そして再会

「グッドモーニング、ベトナム」は、ロビン・ウィリアムズの出世作。ゴールデン・グローブ賞・主演男優賞(ミュージカル・コメディー部門)を受賞しました。印象深い場面は沢山ありますが、ウィリアムズがサイゴンから去る飛行場の最終シーンは大変良い場面でした。そこで言葉を交わす若き黒人兵を演じていたのが、当時売り出し中のフォレスト・ウィテカーでした。

 ウィリアムズとウィテカー。ともに、懐の深さを感じさせる俳優です。

 ウィテカーもその後、個性派の立派な俳優へと成長します。映画「バード」ではチャーリー・パーカーを熱演し、カンヌで主演男優賞を獲得しました。そして、ウィリアムズとウィテカーが再び顔を合わせたのが、2013年の話題作「大統領の執事の涙」です。

 ウィテカーが主人公の大統領執事セシル・ギンズを演じました。ウィリアムズは、アイゼンハワー大統領の役です。

 この映画では、ウィリアムズにしては珍しく、権力と権威の象徴である米合衆国大統領を演じました。が、ここでもまた、人間味が滲み出る燻し銀の名演が観られます。

 人種差別が当然の如く行われていた1950年代。ホワイトハウスの主たるアイゼンハワー大統領は、対ソ冷戦に直面しつつ、国内政策でも難しい舵取りを迫られていました。先鋭化していた公民権運動です。主人公の黒人執事の視点からすれば、大統領は仕事上の究極の上司ではありますが、白人への複雑な思いもあります。そのセンシティビティーを十分に理解した態度が素晴らしいのです。大統領役のウィリアムズと執事役のウィテカーのさりげない会話が沁みます。

 そして、この映画「大統領の執事の涙」のサウンドトラック盤(写真)もまた、そんなロビン・ウィリアムズを思い出す名曲揃いです。1950年代アイゼンハワー時代を鮮やかに示すのが、クインシー・ジョーンズ楽団演奏、歌はダイナ・ワシントンの“I’ll Close My Eyes”です。またサントラ盤の白眉は、この映画のためにレニー・クラヴィッツが作詞作曲編曲し、グラディス・ナイトが唄っている“You and I Ain’t nothin’ No More ”です。

 ロビン・ウィリアムズはこの映画の主役ではありませんが、遺作と言っても過言ではありません。それに、ウィリアムズ&ウィテカーの「グッドモーニング、ベトナム」の続編的な意味があります。