「コーヒーと一緒なら許される」
――クリスピー・クリーム・ドーナツとスタバの戦略

 私は、急成長しているナチュラルテイストのレストランチェーン「Leon(リオン)」の経営者ヘンリー・ディンブルビーに、オフィスで仕事をする人たちが、前より糖分に夢中になっていると思うかと尋ねた。「ああ、たしかに。糖分は、食べ物における最大の問題だよ。イギリス人の40パーセントが、何らかの糖分依存症に陥っていると思う」と彼は答えた。

 そのあと、こちらが水を向けたわけでもないのに、彼は口にしたのだ。ケーキとコカインの類似性について。「だれかが、クリスピー・クリーム・ドーナツの箱を抱えてオフィスに入ってきたところを見てみるといい。一斉に歓声があがって、全員が駆けよってくる。まるで、だれかがパーティーにコカインを持ち込んだみたいにね。みんな、そんなふうに集まる。きっと効果が酷似しているからだろう」

 もちろん、クリスピー・クリーム社は、そんな示唆を喜ばないだろう。だが、1937年にノースカロライナ州のウィンストン・セーラムでヴァーノン・ルドルフが創業した同社の命運は、この健康志向の世の中で、糖分含有量が超高い娯楽用の食べ物をどうやって売ればよいかを教えてくれる。マグノリア・ベーカリーのカップケーキと同じように、クリスピー・クリーム・ドーナツも、ノスタルジアという切り札を使っていて、「Krispy Kreme」という社名のスペルは、うっとりするほど古風だ。そのロゴも、1930年代に地元の建築家だったベニー・ディンキンズがデザインしたものから、ほとんど変わっていない。

 同チェーンは、1990年代に拡大路線に打ってでたが、手を広げすぎて失敗してしまった。古風なドーナツを食べるのは、皮肉っぽい態度を表明することだと自らに言いきかせていた客たちも罪悪感に屈し、あわただしく開店した店の多くは閉店を余儀なくされた。

 が、そのあと同社は、さまざまな方法を試し、ついにドーナツと一緒に飲む“特製(シグニチャー)コーヒー”を開発したのである。2010年11月の『ウォールストリート・ジャーナル』紙の報告によると、クリスピー・クリームは第3四半期決算で、97パーセントの利益の伸びを記録したという。