フラペチーノ
――欲望のスイッチを押す巧妙な製品
巧妙な製造企業なら、人々がふだん何か別のことをしているときに、食べ物が欲しくなるように促すことができる。この分野の金メダルは、スターバックスとフラペチーノに贈呈すべきだろう。フラペチーノという名前は、冷やす(コーヒーの場合は氷とまぜて振る)という意味のフランス語「フラッペ」と、「カプチーノ」を合わせた造語だ。この飲み物を発明したのは、マサチューセッツ州のコーヒーチェーン。スターバックスに買収されたときに、その権利を同社に譲ったのである。
この買収によりスターバックスは、長年引きずってきた問題の解決策をにわかに手にすることになった。ケスラーが取材したあるベンチャー・キャピタリストは、こう言っている。かつてのスタバは、いつも混んでいる店内も、午後には「あまりにも閑散としていて、やろうと思えば、ボウリングのボールを転がせるほどだった」と。しかし、このリッチで甘いミルクシェイクという興奮飲料は、午後4時の凪に、うってつけだった。
私は経験からそれを知っている。なぜかと言うと、以前、カナリー・ウォーフにある超高層ビルで仕事をしていたとき、そのビルの1階のエレベーターの横にスタバがあったからだ。夏のあいだじゅう、午後になると、私はフラペチーノをすするために12階から下に降りていった――バリスタがじゅうぶん時間をかけて電動シェイカーで氷を適切に砕くように、そしてキャラメルシロップはホイップクリームに無料でついてくることを忘れていないようにと、いつも祈りながら。こういったことを毎回指摘しなければならないのは、とても気まずいので。
結局私は、スタバに行かなくなった。太りだしたからだ。私たちの新たな食習慣――ホモサピエンスの歴史から見れば、ほんのごく最近身につけたばかりの習慣――は、食欲と生物学的必要性のはなはだしいミスマッチを示している。かつてエネルギーを蓄える貴重な機会をもたらしてくれた高カロリーの食品は、今や体を動かすことが少なくなった私たちの内臓を攻撃しているのだ。
(続く)
※本連載は、『依存症ビジネス』の一部を抜粋し、編集して構成しています。