ＡＶ女優への偏見こそが仕事の価値を生んでいる
「女子高生」ほどわかりやすい“値札”はない
【社会学者・鈴木涼美×社会学者・開沼博】

「女子高生」はわかりやすい“値札”だった

開沼 鈴木さんの生い立ちを聞かせてください。本にも書いていますが、高校生の時にブルセラショップでパンツ売ったりしていたわけですね。当時は、いまほど携帯電話が普及していなかったし、一方で、街はもっと汚く、猥雑だった。そんななかで女子高生をしていて、楽しそうなもの、キラキラしたものを求めてさまよい歩いていらっしゃったのかと思います。

 いま、たとえば携帯電話を持っている状況だったら、あるいは、いまの街の風景のなかだったら、違う行動をしている可能性もありますか。なぜそこに行き着いたのか、言語化するとどんな感じでしょう。

鈴木 当然ですが、渋谷にいる女子高生たちはみんな援交している、パンツを売っているとういことはありません。ギャルっぽい子たちでも、そんなことをしないで生きている子はたくさんいます。たまたま知るということが、きっかけになるんですよ。「○○のお姉さんはヴィトンを持っているけど、××っていう生セラショップが儲かるらしいよ」という話を聞いたら、「ちょっと今度行ってみよう」って。

 私にはそれが比較的簡単にアクセスできるところにあったから、という程度の理由ですかね。渋谷に所属することとイコールで援助交際やブルセラがついてくるわけではないけど、個人的なきっかけやつながりがあると踏み込みやすい。私の場合は、二人挟めばすぐつながる状況でした。

開沼 なるほど。しかし、時間が経つとブルセラショップでパンツを売っていた彼女たちも、大人になっていくわけですよね。結果的に、鈴木さんの周囲にいた人たちは、いまどのような大人になっていますか。「好奇心に引き寄せられて、自分自身を楽しい状態に持っていく力」は重要な生きる力の一つだと思います。女子高生のときにその力を存分に発揮して、偶然にも当時の時代背景のなかでパンツを売っていた彼女たちが、いまどうなっていますか。

鈴木 「女子高生」のようなわかりやすいイメージ、日焼けしてミニスカで茶髪でルーズソックスといったイメージでいるときは、援助交際やブルセラショップで働いていることは、私たちの価値をそこまで下げるものではないと思っていました。ただ、「女子高生」という制服を脱いだあとに、過去にパンツを売っていたことがバレてしまうと、自分自身が傷ついたり、価値が下がったりしてしまう人もいるわけです。大学に入ってＪＪ系の女子になろうとしたときに、元ギャル、元援交がバレたらちょっと気まずいですよね。あのときはアホをしていたという気持ちは、多かれ少なかれあると思います、

開沼 「俺は若い頃はやんちゃしてたんだぜ」という武勇伝に価値を感じている人もいますよね。そうはなりませんか。

鈴木 男の人には多いですよね。簡単に語れてしまう人はいいけど、過去にやんちゃしていたという事実が女の子の口から出てきたら、その子の価値が下がる状況もあるわけです。それほど深刻ではなくても、あの過去はちょっと封じ込めたいという子もいます。ちょっと恥ずかしいとか、彼や旦那が嫌がりそうだとか。

開沼 楽しかったことのすべてが、楽しい思い出ではなくなってしまうということとは違いますか。

鈴木 楽しい思い出として抱えられることは、なくならなくてもいいと思います。

開沼 なるほど。でも、ありのままを外に伝えたら、周りから引かれてしまうわけですよね。周りが受け止めきれない状況がある。

鈴木 それはありますね。制服さえ着ていればパンツが高く売れたり、援助交際できてしまったりという、自分の身体にわかりやすい“値札”がついている状況がなくなったとき、値札があったからこそ得られていた楽しさや何とも言えない気分の良さを何で埋め合わせればいいかは考えていました。私自身、25歳を過ぎて、30歳も過ぎて、自分の肉体的な価値が下がっていることを自覚してからは、いっそう考えます。自分の話で普遍性はないかもしれませんが、それはずっと思っていますね。

 私はその時々、つなぎつなぎで、その楽しさや高揚のようなものを、かろうじて見つけ出しながら生きてきました。キャバクラ嬢だったときもそうです。キャバクラで時給や売上げが上がっていくことで、自分の価値そのものが上がっていく感じがすると感じていました。

「女子大生」という値札も、女子高生ほどわかりやすくはありませんがそうですよね。合コンに行けば、「慶應の女子大生」という値札は割とわかりやすいものです。一部の人にとっては価値になることを使えば、いまでも女としての寂しさを埋め合わせることができます、ある程度は。

 ただ、ブルセラで胸につけた値札に「パンツ8000円」と書き、お金を持ち帰れるほど、わかりやすいものはどんどん減っていくことはたしかです。自分の身体から価値がはがれ落ちていくのがわかるので、寂しいという気持ちや、なんとなく満たされないという想いが、少なくとも私自身にはあります。私と同じように感じている子がまったくいないとも思いません。

_{※対談収録は2014年8月13日に行われた。発言内容は当時のままを残している。}

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