一つの戦略が解決できる問題の方向性は限られている

 人類3000年の戦略をエッセンス化した書籍『戦略の教室』ですが、ご一読いただくと実に様々な戦略がこの世界にあることがおわかりいただけます。この多様性は、裏をかえせば一つの戦略が解決できる、問題の方向性がごく限られていることも示しています。

 同じように、企業の組織形態も「○○には強いが××には弱い」ということが厳然として存在しています。クギを打つ金づちで紙を切ることはできないように、できることとできないことは、組織が持つ戦略によって決定されています。

 個人の人生では、戦略の影響はさらに顕著です。私たちは、みずからが所有して使っている戦略によって、人生を形成しているからです。仕事ができる人は昇進を、人間関係を創り出すことが得意な人は多くの友人知人がいる、というようにその人が持つ解決策が、その人の人生の足跡を決め、どのようなものに囲まれるかを決めているからです。

 人生の戦略と呼ぶことが難しければ「生きる姿勢」「基本的信条」「考え方」などの言葉で置き換えてもいいでしょう。それらを基にした行動を私たちが取ることによって、その反響としての成果を常に受け取っており、その積み重ねが人生そのものなのです。

「自分は人生戦略など持っていないよ」と言う人は、裏をかえせば人生の指針を特に選ばないという戦略で生きていることになります。ある種の気楽さを選択する人生戦略であり、何もしない、というのもある種の選択なのです。そしてその戦略が解決する結果として「日々の気楽さや楽しさ」を享受し、逆にその戦略では解決できないことは、手に入らないことになります。

 私たちはそれぞれ人生態度を選び、日々(意識しないままに)問題解決をしています。面倒なことが嫌いな人は、そのようなことを避ける人生を手に入れる代わりに、細かな努力をすることで手に入るものを放棄していることになり、緻密な計画で毎日を過ごしている人は、なにも考えないリラックスした時間から遠ざかっていることになります。

 私たち個人が、個別に持つ解決力の特徴によって(囲まれる)世界を創りだしているように、企業組織もまた自らの特化している解決策によって企業規模や盛衰が決まっているのです。したがって、古い解決策を手離して新たな解決策を育てていかなければ、企業は同じ方向性が通用する期間以上には、成長や勝利をすることができないのです。