当時、変動相場制をあくまで暫定的措置と位置づけ「いずれは固定相場制に戻るべき」という考え方が根強かったのに対し、現実には21世紀以降も変動相場制が継続されています。それは、“国際金融のトリレンマ”としても知られているように、「固定相場制、自由な資本移動、独自の金融政策」をすべて成立させることはできないからです。

 日米英などは、自由な資本移動と独自の金融政策を確保するために、固定相場制を放棄しています。これに対しユーロ圏は、共通通貨ユーロの導入という固定相場の導入と自由な資本移動を選択して、各国は独自の金融政策を放棄しました。また中国は、従来の固定相場と独自の金融政策の下での資本規制から、変動相場制への移行による資本の自由化へとモデル・チェンジしようとしています。

 ニクソン・ショックは、固定相場の仕切り直し(スミソニアン協定)を経て、変動相場制を生みだしました。その制度は現代にまで受け継がれていますが、決して理想的なシステムとして認知されているわけではありません。たとえば、ブラジルやインド、中国などの新興国は、急激な資本の流出入を回避しようとして、一時的に資本規制による為替変動抑制策を採ることが少なくありません。また先進国においても、輸出競争力を高めるために為替介入や金融政策を通じた自国通貨安誘導を行う例が、今なお見られます。

 金との交換性を断ち切り、固定相場を断念したことは、当時として大きな決断であったことは間違いありません。結果的にその英断が、1970年代以降の世界経済の成長に貢献したことも事実でしょう。しかし、40年以上が経過した今なお、為替相場に関する各国の不平・不満は収まらないのです。通貨制度や為替レートに関わる問題が、新たな金融危機のタネにもなり得ることは次回以降でも論じていきます。