大正時代から現代まで、その時代の経済事象をつぶさに追ってきた『週刊ダイヤモンド』。創刊約100年となるバックナンバーでは、日本経済の現代史が語られているといってもいい。本コラムでは、約100年間の『週刊ダイヤモンド』を紐解きながら歴史を逆引きしていく。今回は、ドル・ショックとそれを境にスタートした「新しい経済体制」下での世界経済について考察する。(坪井賢一)

ニクソン・ショックは
「新しい世界経済体制」へのスタート

 1971年8月15日のニクソン声明以来、悲観論が蔓延した。「週刊ダイヤモンド」は上記のように「デノミ論争」の帰趨を詳しく追っているが、1か月後の「ダイヤモンド経済情報」(1971年10月1日号)は、やや落ち着きを取り戻した論調で特集を組んだ。題して「ドル・ショック1か月 日本の景気はどうなってしまうのか!」

 この特集の中で、坂田真太郎・大和証券調査部長(★注)による寄稿文が目を引く。もっとも将来を見通した論調だった。

「こんどのニクソンの非常事態宣言はニクソン・ショックというより、『新しい世界経済体制へのスタート』と見るべきだ。私はそのように今度の事態をみている。だから、消極的に、後ろ向きに考えると悲観論・絶望論しかないわけだ。何のプラスもない。逆に、新しい事態に処する考えだと、希望が出てくる。やる気がもりもり起こる。

 ニクソンの非常事態宣言は、米国側からみると、現在までのIMF・ガット体制の行き詰まりを、米国本位に打開する政策だ。他国通貨の切上げと、輸入課徴金の設定による国際収支回復・ドル信認の回復である。世界は米国についてくると思っている米国の経済センスからすれば、これさえ、付随的な項目だろう。」(中略)

「日本経済は、こういう新事態に対して、いつものように、きわめて敏速な反応を示すだろう。今のショックは次の薬になる。」(中略)

「大局的にみて、社会資本を充実し、高級な質的高度成長時代へきりかえができるであろう。そのためのショックだ。以上は、長期的な基本的な観測である。

「過渡期の半年か1年の予測も必要だ。大和証券の計量モデルによると、米国における輸入課徴金がつづき、フローティングレートの時期が長引いても、政策よろしくをえて、財政中心の景気刺激策がとられると、マクロ的には、経済ショックは大きくならぬ。