大正時代から現代まで、その時代の経済事象をつぶさに追ってきた『週刊ダイヤモンド』。創刊約100年となるバックナンバーでは、日本経済の現代史が語られているといってもいい。本コラムでは、約100年間の『週刊ダイヤモンド』を紐解きながら歴史を逆引きしていく。今回は、前回に引き続き、1971年に起きた「ドル・ショック」とその後に浮上した「デノミ論」について詳しく考察する(坪井賢一)

ハイパーインフレ時だけではない
「デノミ論議」浮上の歴史

「週刊ダイヤモンド」1971年9月11日号は、全ページ「ドル・ショック」特集号だったことを前回述べた。構成は下記のとおりである。

・現状を正確に把握するための20章……国際通貨体制の行方を追う
・対外・対内施策をどう進めるか……政府がやるべき13の課題を論じる
・産業・企業はこのピンチをどう切り抜けるか……企業がやるべき8項目を提案
・切上げ デノミはこうして乗り切れ……国民生活の自衛法17項目を提案

 最後の章はデノミ(デノミネーション)をフィーチャーした記事だ。

 デノミとは「通貨単位」のことで、日本語ではデノミ=「通貨単位の切り下げ」を意味しているが、英語で単位の変更はRedenominationという。

 歴史的には、インフレが激化して通貨単位の桁がどんどん増えていき、実情に合わなくなるとデノミが行なわれている。たとえばドイツでは第1次大戦後のハイパーインフレーションのもと、1923年にデノミを行なっている。交換比率は1レンテンマルク=1兆マルクという途方もないものだった。

 1971年ドル・ショック時の議論は、ハイパーインフレ対策ではない。いよいよグローバル化する日本経済と円にとって、ドルと同じ単位(桁)に切り下げて国際化に対応しようという意味であろう。議論されていたのは100分の1への切り下げで、1ドル=2円、あるいは3円、という単位である。現在でいえば、1ドル≒0.83円≒1.12ユーロという関係になる。

 その後もたびたびデノミ論議は浮沈を繰り返す。デフレ下でも出てくるのだが、これは100分の1に切り下げると、たとえば580円の商品が5.80円となり、6.00円へ値上げしやすくなるからだ。物価上昇へ結びつく、という論点だと思われる。あるいは、1ドル≒1円≒1ユーロという連想が働けば、極端な円高を防げる、という考え方もある。

 2009年9月の鳩山政権下、政府債務の単位を下げるためのデノミ論議が首相のもとであったらしいが、すぐに消えている。政府債務800兆円が8兆円になるわけで、実質的な価値には無関係だが、見かけ上ごまかせるというわけだ。