米国ウィスコンシン州出身。1992年、米国ジョージタウン大学医学部卒業。1995年、米国立衛生研究所アレルギー・感染症研究所にて、HIVウィルス学、免疫学、治療最適かに関する基礎臨床研究に従事。2003年、米国大統領緊急エイズ救援計画(PEPFAR)設立を主導。06年、同機関代表のグローバル・エイズ調整官(国務次官補級)に任命され、09年まで従事。13年1月、グローバルファンド事務局長に就任。 Photo by Kazutoshi Sumitomo
グローバルファンドはスイス、ジュネーブに本部を置く、HIV/エイズ、マラリア、結核という三大感染症の撲滅に取り組む国際機関だ。各国政府から296億4817万ドル、企業や財団から19億31万ドル、合計約300億ドル(2014年9月末時点)もの拠出金によって運営されている。2002年1月に設立されたのだが、実は設立のきっかけは日本にあり、2000年の沖縄サミットで議長国の日本が感染症対策を主要議題に取り上げたことにある。日本はまさに“生みの親”だ。その日本は21億5622万ドルを拠出する第5位の拠出国。企業では520万ドルの拠出をしている武田薬品工業が名を連ねる。今、世界ではエボラ出血熱という新興感染症の脅威にさらされている。長年、感染症と闘ってきたグローバルファンドのトップである、マーク・ダイブル事務局長に、三大感染症の現状と課題、エボラ出血熱に対する同機関のアプローチについて話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
今、私たちは感染症との戦いにおいて
歴史的分岐点に立っている
――現在、世界におけるHIV/エイズ、マラリア、結核の流行の状況と、直面している課題を教えてください。
全般的に良い道筋を辿ってきています。HIV/エイズ、マラリア、結核という三大感染症対策は、良い結果が出ている国もあります。HIV/エイズの新たな感染は3分の1に減っていますし、現在、治療を受けている人も低・中所得国で1300万人ほどになります。
マラリアについても良い進捗状況で、50ヵ国で症例は75%も減り、死亡者数も50%以上減ってきています。さらに数十ヵ国においては、マラリアは根絶へ向けて進んでいる。特にアジア太平洋地域は世界でももっとも進んでいる地域です。地域全体でマラリア根絶に近づいています。
結核はミレニアム開発目標、すなわち、新たな発症例50%減に向け軌道に乗ってきています。ただ、こうした数値は平均値でしかありません。懸念材料はまだあるのが現状です。たとえば中東や東欧ではHIV/エイズは増えてしまっています。
結核については多剤耐性型結核という、恐ろしいタイプの結核が東欧で増えています。マラリアについても今の努力を続け、さらに努力を積み重ねない限り、ふたたび症例が増えてきてしまうでしょう。
これらのデータを見ると二つのことがわかります。ひとつは疫学的な理解が深まっていることです。この10~15年くらいの間で、対策を講じるためのシステム作りが進んできている。ただ、今の戦いは続けなくてはならない。続けていけば、病気が完全に世界から無くなるわけではありませんが、公衆衛生上の脅威ということではなくなるでしょう。
私たちは今、歴史的な分岐点に立っています。今後、投資を続けていけば、世界の目標である三大感染症の脅威との戦いに終止符を打つことがきます。