リッツ・カールトンが大切にする
「45秒ルール」

高野 もちろん、言葉のコミュニケーションも大切です。たとえば、リッツ・カールトンでは「45秒ルール」というのがあります。45秒で、お客様に大切なことをお伝えするためのトレーニングをさせられるのです。

矢野 どうして45秒なのですか。

高野 なぜ45秒間なのか、ということですが、米国のある起業家が、ベンチャーキャピタリストから出資を引き出そうとして何回も面会を求めたのです。でも、なかなか取り継いでもらえない。ところがある日、そのベンチャーキャピタリストから、「45秒間だけプレゼンテーションの時間をあげよう」と言われたのだそうです。それは、エレベーターで1階から、ベンチャーキャピタリストのオフィスがある最上階に行くまでの時間で、その間にプレゼンテーションをせよ、ということだったのです。

矢野 拙著は『一分で一生の信頼を勝ち取る法』というタイトルですが、45秒、あるいは一分という短い時間で、ビジネスの勝敗が決するということもありますね。

高野 本当に息をつく間もないほど忙しいビジネスパースンでも、45秒という短い時間なら捻出できますよね。短い時間ではありますが、部下とのコミュニケーションを図るには十分です。一緒に仕事をしている部下と廊下ですれ違った際に、「この間つくってもらった資料の10ページ目、よく目を通しておいて」と言うだけで、相手の注意喚起を図ることができます。

矢野 ちょっとした立ち話の時間でも、仕事上の重要な意思伝達は可能なのですね。

高野 45秒という短い時間で、相手に要領よく言いたいことを伝えるためには、常日頃から問題意識を持つ必要があります。特に組織のリーダーになる人にとって、これはとても大切です。

矢野 45秒って、職業人としての長い人生の中では、本当に一瞬の時間です。しかし、こうした瞬間をきちっと積み重ねてきた人が、人からの信頼を得て、ビジネスの成功を勝ち取ることができるのだと実感しました。今日は、本当にありがとうございました。

高野 リッツ・カールトンとNHK、驚くほど共通点があって、楽しかったです。こちらこそありがとうございました。

<著者プロフィール>
矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。
NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。
現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。
相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。
著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。
【著者オフィシャルサイト】http://www.authenty.co.jp