「予定調和の美」と
「ナインドット(9つの点)を飛び出す」発想
高野 ただ、ここがちょっと難しいのですが、型だけに執着して、そこから離れられないと、これまた仕事としては面白くない、というところはあると思います。やはり既成の発想を飛び越えて初めて、そこに新しいサービスの発想なり、ビジネスの着想なりが生まれてきます。リッツ・カールトンでは、これを「ナインドット(9つの点)を飛び出す」、ウェスティンホテルでは「箱の外に飛び出す」などと言われました。両者とも言わんとすることは同じで、つまり既成の概念にとらわれず、新しい着眼点を持って仕事に臨むということで、上司からもこのセンスを強く求められます。
矢野 「予定調和の美」という考え方があって、それが信頼感、安心感、安定感などにつながっています。NHKは公共放送ですから、全国あまねく、同じクオリティの番組が視聴できるという大前提があります。東京の放送センターと地方局のスタジオセットは、基本的に同じコンセプトでつくられています。もちろん、広さの違いはあるのですが、たとえば今年はちょっとウッディーな雰囲気で行こうということになれば、すべてのそのイメージで統一されるのです。アナウンサーがまずニュース原稿を読むことから徹底的にイロハを叩きこまれるのも、まさに「予定調和の美」という考え方があるからで、アナウンサー全員のクオリティを一定水準以上にしなければならないということなのだと思います。そして、その一定水準というのは、前篇にも触れましたが、他を圧倒するものでなければなりません。それができて初めて、バラエティ番組などで、遊びを入れながらトークを回す役回りができるようになるのでしょうね。
高野 それは同感です。リッツ・カールトンがお客様に提供しているサービスも、マニュアル重視の四角四面のものでは決してなくて、マニュアルによって絶対に守らなければならない基本があるからこそ、その上に乗って遊ぶことができるのだと思います。イチロー選手の言葉に、「当たり前じゃないところにたどりつくためには、当たり前のことをやり続けること」というものがありますが、まさにそのとおりだと思います。それと同じことを日々実践しているからこそ、リッツ・カールトンやNHKには他を圧倒する存在感があるのでしょう。