この作品は、「陽のあたる家」の連載中から構想され始めた。さいき氏は2013年8月、筆者のインタビューに対して、このように答えていた。

「生活保護制度の原則の1つは『無差別平等』ですから、いわゆる『眉をひそめたくなるような人たち』も受給しています。(略)

 眉をひそめたくなるような生活保護当事者に対しては『なぜ、私たちの税金で?』という見方がされやすいですよね。だから、『貧困はなぜ生まれるのか』を描かなくては、と思っています。そこまでは、絶対にたどりつきたいです。そうしないと、『陽のあたる家』は、私の中では完結しません」

 貧困問題を中心に、意欲作を発表し続けるモチベーションの源は、どこにあるのだろう?

貧困の拡大に「希望」を見出す

「ジャーナリズム」誌2014年11月号(朝日新聞社)。格差問題について、数多くの著者による読み応えある記事が、豊富なデータや事例とともに紹介されている

 「ジャーナリズム」誌(朝日新聞社)・2014年11月号には、さいき氏の記事「生活保護を題材にした漫画『陽のあたる家』で不寛容な社会を少しでも変えていきたい」が掲載されている。ちなみに特集は「どうする格差社会ニッポン」。増田寛也氏(エコノミスト・元総務省)、社保審・生活保護基準部会の委員でもある阿部彩氏(国立社会保障・人口問題研究所)、竹信三恵子氏(ジャーナリスト・和光大学教授)による20ページにわたる鼎談を始めとして、読み応えあり、かつ現実的な処方箋を考えるヒントとなりうる記事多数が掲載されている。

 さいき氏の記事を読むと、優れた漫画家であるだけではなく文章力も非常に高いこと、訴求力の根源が自省・内省を含めた観察力にあることを推測できる。たとえば、自分自身が「生活保護受給者と間違われたくない」と思ってしまった遠い昔の経験を紹介するくだりにつづけて、

「無意識に抱いている認識を捨て去るには、まず『こういう認識を持ってしまっている』と自覚する必要がある。次に、その認識が不当であることを認めなければならない。いずれも、しんどくて面倒な作業である。自分が不利益を被るのでなければ放っておきたい、と思うのが普通だろう」

 と述べ、この抜きがたい認識とともにある多くの人々が「憎悪を煽られてバッシングを生む」というのだ。そして末尾は、

「(現状が)酷いがゆえに生まれた希望であると思う。(略)さまざまな困難の源にある事情を知り、不寛容から寛容に代わる機会なのだ、と。

(略・寛容な社会は)自らが不寛容から脱することで作り上げていくしかない。(略)困窮という共通体験が、唯一にして最大の紐帯となり得る。(略)無知で不寛容だった一介の漫画描きは今、自らの困窮と引き換えに、そんな希望を見出している」

 と結ばれている。