議論のすり替えが横行している

 また、アベノミクス支持派が、しきりに「アベノミクスの失敗は消費増税のせいだ」というロジックを振りまいている。2014年4月1日の8%への消費増税が、景気を腰折れさせたという主張だ。

 増税を行えば、景気に悪影響があるのは当たり前である。しかし、「輸出が増えない」「設備投資が増えない」「給料が上がらず消費が増えない」というのは、突き詰めれば「工場の海外移転による国内空洞化」という日本経済の構造問題に起因するものだ。つまり、消費増税があろうがなかろうが、アベノミクスには「瞬間的に一息つく」以上の意味はなく、次第に円安による家計、企業経営の悪化、財政赤字の更なる拡大となり、日本経済に致命的なダメージを与えていくものなのだ。

 それにもかかわらず、アベノミクス支持派による議論のすり替えはまかり通っている。そして、「元々増税を決めたのは民主党で、安倍首相はそれを踏襲させられた被害者」であるかのような、イメージ操作も行われているように思われる。これに対して、野田元首相ら民主党側が「これほど景気が悪化すれば、消費増税先送りも仕方がない」という姿勢を取るようでは、なんとなく自らの罪を認めたような印象になってしまう。これでは、アベノミクス支持派の議論のすり替えを正当化してしまうのだ。

 むしろ野党側は、アベノミクスによる成長戦略、構造改革の遅れ、財政悪化の深刻化こそ問題であるとし、増税は予定通り、断固として実施すべしと訴えたほうがいいのではないだろうか。もちろん、増税を選挙で訴えるのは、自殺行為ではある。しかし、これほど野党が弱体化した状況では、開き直って増税を訴えた方が、国民に対して迫力のあるアピールができる可能性があるかもしれない。

首相が本当に「やりたい政策」とは

 結局、今回は、「消費増税の先送り」「アベノミクスの失敗」が争点になり、野党が今一つ攻め手を欠くというしょぼい総選挙になりそうだ。だが、徹底的に経済に焦点が当たる裏で、安倍首相が本当に「やりたい政策」(第80回を参照のこと)については、目を離してはいけないのかもしれない。「やりたい政策」とはいうまでもない。「集団的自衛権行使」「憲法改正」など安全保障政策、そして「原発再稼働」である。

 13年7月の参院選以上に、今回の衆院選で安倍首相は、これら重要課題の争点化を徹底的に避けるように思う。しかし、野党が経済政策で与党を攻めあぐね、与党の勝利という結果に終わったら、安倍首相は一挙に「やりたい政策」の実現に動くのではないだろうか。選挙での争点化は慎重に避けるとしても、「やりたい政策」は自民党の選挙公約にはそっと盛り込まれるのは間違いない。安倍首相は選挙後、選挙公約を根拠に「国民の信任を得ました」と急に強弁し始めるだろう。

 逆に言えば、野党は経済よりも、安全保障、原発に焦点を当てて、徹底的に安倍内閣を攻撃するという選挙戦略があり得るのだ。だが、「脱原発」を前面に押し出した細川護煕・小泉純一郎連合が、経済・社会保障に集中した舛添要一氏に敗れた東京都知事選のことが、悪いイメージとして残っているように思う。野党が、安全保障・原発に集中して、安倍内閣を攻めきる勇気を持つのは難しいだろう。