「問題社員」だった私が「本気」になった瞬間

 私自身も、30代前半まではまだまだ「本気を出していない人」でした。

 織物を扱うケニアの日系企業で働いていた会社員時代は、地元のラグビー・クラブで走り回ったり、サッカー部をつくったり、運動会を企画したり、仕事以外の面は本当に楽しくすごしていたのですが、従業員としては、いつクビにされてもおかしくないような「ダメ社員」「問題社員」でした。

 入社してすぐに配属されたのは染色の部署。

 ところが毎回染料を量り間違えるので、ちゃんと色が出ない。じゃあ、今度は計算をやらせてみようということで経理部に回されたものの、簡単な足し算さえ間違える。そろばんも使えない。計算のやり直しをさせても、10回やらせれば10通りの結果が出る。

「佐藤くん、もういいよ」と上司から引導を渡されて、次はデザイン部に。もちろんデザインの素養なんてないのでダメで、その次は倉庫係。でも、やっぱり足し算ができないし、決められた棚に商品を置かないから使いものにならない。本当に何をやらせても不十分だったのです。

 まだ「オーナーシップ」が身についていなかったせいで、目の前の仕事がどこか「他人事」だったのでしょう。会社運営には欠かせない「おカネ」と「物」と「伝票」の流れくらいは頭に入りましたが、それ以外はあまりモノになりませんでした。

 ところが最初の会社を興してから一変しました。

 ナッツ・ビジネスであれば、ナッツの種類から、栽培方法、ローストの仕方まで、仕事にまつわるありとあらゆる知識とスキルが、すさまじいスピードでどんどん頭に入り、スポンジが水を吸うように吸収されていくのです。

 会社員時代、取引先でのプレゼンテーションの前に仕込んだ内容が、終わると同時に頭から抜けていき、何も残らなかったのが信じられないほどでした。