東京・芝浦のヤナセ東京支店「メルセデス・ベンツショウルーム」で、「アーク写真展――犬生、猫生、人生」が2014年12月6日から21日まで開催される。「アーク」とは、特定非営利活動法人アニマルレフュージ関西(Animal Refuge Kansai)の頭文字をとった略称だ。災害や虐待、遺棄によって放り出された犬や猫をシェルター(避難所)に保護し、新しい飼い主(里親)を探す活動を続けている。この写真展は、そうした犬や猫の写真を展示し、保護活動の情報提供を図る試みで、ヤナセが展示場を無償で提供する。
2014年、10年前の撮影
いったい、「本田美奈子と日本のポピュラー音楽史」になんの関係があるのか、と言われそうだが、展示される犬や猫の写真はすべて原田京子さんの作品である。
原田さんは本田美奈子さんのスタジオ写真やコンサート写真を2004年に撮影した最後の写真家だった。そのころの様子は連載第21回で詳しく書いた。多少重複するが、その経緯を振り返る。
原田さんの撮影は、2004年10月から12月にかけて集中的に行なわれた。撮影したのは3回だった。
1回目……2005年カレンダー用の撮影(東京)
2回目……「週刊ポスト」(2005年1月14-21日号)グラビアの撮影(旭川)
3回目……2004年クリスマス・コンサートの撮影(東京)
3ヵ月間で3回、相当量のまとまった撮影を行なっていた。2005年は本田美奈子さんのデビュー20周年に当たり、多くのミュージカル、クラシックコンサート、ポップスコンサートの予定が組まれていた。原田さんはそのすべての撮影を任されることになった。写真集を出版する構想もあったのだそうだ。しかし、05年1月に入院し、11月に他界してしまう。
原田さんは本田さんが「殺意のバカンス」(東芝EMI)でデビューした1985年にプロを目指して写真家の事務所で働き始めた。4年後の89年に独立し、現在は広告写真やファッション写真で実力をよく知られた存在だ。
本田美奈子さんの撮影を初めて依頼されたのは、2作目のクラシック・アルバム「時」の録音が最終段階にあった2004年夏だった。カレンダー、「週刊ポスト」のグラビア撮影と続き、最後の撮影は12月22日のクリスマス・コンサート(新宿文化センター大ホール)だった。原田さんは楽屋の中から舞台袖の様子まで、すべて撮影している。
2005年の撮影計画は1月13日に打ち合わせする予定だったが、本田さんが前日に入院し、実現しないまま終わってしまった。
原田さんの喪失感は大きかったことだろう。献身的に歌い、命がけで表現する姿に強く打たれていた。レンズを通して本田さんの精神が心に取り込まれていた。