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おもてなしで飯が食えるか?
【第6回】 2014年12月17日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

マーケティングが苦手な「おもてなし」の扱い方【後編】――ネットの口コミと、どう向き合うか

 顧客自身は感動体験を味わっていないのに、なぜか高いロイヤルティを示してリピート利用する…。この不思議を生み出す原理はいくつか考えられますが、わかりやすく説明するなら「同化作用」でしょう。同化作用というのは、「顧客がサービスに対して高い期待を持っている時、実際のサービスの結果が期待と大きな乖離が無ければ、顧客は高い事前期待に寄せた方向で、受けたサービスを知覚する」という知覚矯正の作用です。リッツ・カールトンを訪れる顧客は、世の中の高い評価や過去の自分自身の体験を通じて、同ホテルに対して高い期待を抱いています。そしてリッツ・カールトンは実際に、(ワオ・ストーリーとは言わないまでも)手抜かりのないサービスを高い確率で提供してくれます。感動するような出来事は無くても、「さすがリッツ・カールトン!」という具合に満足してホテルを後にする訳です。

 もてなす企業側ともてなされる顧客側との相性がピッタリと合えば、顧客は感動水準の満足を得られます。でも仮におもてなしが響かなかったとしても、先のリッツ・カールトンの例で説明した通り、他の部分で高い水準の顧客満足は担保できるのです。本コラムの第3回で解説した通り、おもてなしは企業が提供するサービスのうち変動性が高い部分の、そのさらに一部でしかないのですから。しかも今回見たように、おもてなし以外の部分の方が圧倒的にマーケティングに利用しやすいのです。ホテルで言えば、設備や部屋の備品の充実度だったり、食事の質だったり、スタッフのきびきびとした動きだったり…。こうした有形化や標準化ができる要素は、広告で具体的な形を示せますし、魅力が伝わり易いので価格への反映もやり易いのです。

おもてなしは「良心」みたいなもの

 言ってみれば、企業が提供するサービスの中の「おもてなし」は、人付き合いで言うと「良心」みたいなものです。

 良心は本来誰にも備わっていますが、それがどういう形で発現されるかは相手やシチュエーションにも依ります。「おもてなし」も多くの日本企業のサービスに備わっていますが、いつ、どのように発揮されるかは確定できるものではありません。そして良心的な行為に対して感謝してくれる人もいれば、気づかない人やお節介だと感じる人もいます。人付き合いにおいて相性があるように、企業側のおもてなしを気にいるかどうかは、顧客との相性にも依るのです。

 互いによく知らない相手に訴求する時の難しさでも、良心とおもてなしは似ています。私達は自己紹介で「私の強みは良心です」とはあまり言いませんね。その人が良い人物かどうかは、風貌や言葉遣いなどから察して判断するもの。同様に、事前にその企業が「我々のおもてなしはスゴイです」といっても信用されるものではなく、PeopleやPhysical Evidenceなどから、顧客が感じ取るものです。

 そして、どんなに良心が備わっていても、他の部分で大きな短所があれば、他人からは好かれません。あるいは良心以外の魅力が無くて凡庸であれば、ただの「良い人」で終わってしまいます。おもてなしを実践する企業も、ベース部分の顧客ニーズを満たす、あるいはおもてなし以外の差別化ポイントを磨いておかないと、顧客にとって際立った存在にはなれないのです。

 おもてなしは人を惹きつけます。でも本コラムで繰り返し申し上げているように、勝負の大半はおもてなし以前のところで決まっているのです。

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

「おもてなしで飯が食えるか?」

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