アドラー的な「横の関係」は
実現可能か?
──ちなみに、反発の声みたいなものは届きますか?
岸見 もちろんあります。特にアドラー心理学の「ほめてはいけない。叱ってもいけない」という話には反発が多いですね。
古賀 ほめるのでもなく、叱るのでもない、「勇気づけ」のアプローチですね。具体的に、どういう反発があるのでしょう?
岸見 中高年層の男性に多いのですが、「これまで自分は叱られて育ってきた。ときには叱ることも必要だ」といった声ですね。
古賀 叱るのは「愛のムチ」だと。
岸見 ええ。残念なのは、教育関係者の中にも叱ることの重要性を主張する方が多いことです。
古賀 アドラーは、「縦の関係」ではない、対等な「横の関係」を結ぶように説いていますよね。でも、実際の教育現場では叱りつけることも必要だ、という声がある。アドラーの思想はしょせん理想論で、育児や教育の現場ではなかなかそうもいかないんだ、というわけですね。
岸見 そう主張する教育関係者は、少なからずいます。とはいえ、叱ることの重要性を説く方々は、むしろほんとうの修羅場を経験したことがないのかもしれません。
古賀 どういうことでしょう?
岸見 つまり、叱りつければ場が収まる程度の、いわば力で抑えることができる程度の混乱しか経験されていない。いわゆる「学級崩壊」などの現場になったら、どんなに叱ろうと力で抑えることはできません。
古賀 なるほど。たしかに思春期の自分を振り返っても、親や教師に叱られるほど反発していたように思いますし、彼らとの距離が遠くなっていった気がしますね。
岸見 親や教師など、「縦の関係」から投げかけられる言葉には耳を貸さない。他方、友人など、「横の関係」からの言葉には耳を傾けていたのではないでしょうか。