リーマン・ショックから一年が過ぎた。
ある日本の大手金融機関トップは最近、IRのためにワシントン、ニューヨークを訪れ、驚きと違和感を同時に覚えた。
「半年前まで、ウォールストリートは暗く沈うつで、みな下を向いていた。今は、まったく違う。投資案件を熱心に探し、採用を再開し、高額給与を復活させ、経済の先行きに自信を示す。金融機関の決算内容を見れば、確かに市場部門は好調だが、融資部門の不良債権は企業、個人向けともに増え続けている。どうして、あれほど強気になれるのか、分からない」――。
加藤出・東短リサーチ取締役も二週間ほど前に、“ウォールストリートの不思議な活況“に触れてきたばかりだ。彼は、その強気の原因を、「バランスシート調整がまだ始まっていないことを、多くの人が自覚できていないからではないか」と言い、「日本のバブル崩壊後数年を経過した1993~94年頃と似ている」と指摘する。
当時、地価の下落は止まる気配を見せ、底値に近いと判断してマンション購入に踏み切った人は数多い。ところがそれは「偽りの夜明け」であり、日本はその後、企業部門、家計部門とも膨張かつ損失を抱え込んだバランスシートの調整とデフレスパイラルに苦しめられ、経済の長期低迷を招いた。
現在の米国も、財政支援と金融緩和効果が持続し、痛みは大いに和らげられている。実体経済の悪化と金融システム危機を増幅させる不良債権処理問題は、まだ先送りの最中なのだ。だから、「バランスシート調整がいかに長い時間を要するか」(日銀幹部)、まだ理解できないでいるのだ。また、その危険を察知しているはずの金融専門家たちも、多くの人が気付いていないのにとりたてて将来不安を口にすることはない、お祭り騒ぎでマーケットを盛り上げ、今のうちに稼ぐだけ稼いでしまおう、という意気込みでいる。米国的楽観主義がウォールストリートを支配している、ということなのかもしれない。
だが、悲観主義者は少ないが、確実にいる。例えば、米ピーターソン国際経済研究所シニアフェローから英中央銀行金融政策委員に転じたアダム・ポーゼン氏は、「2011年後半から12年半ば頃には景気対策の効果が消え、民間部門の需要はまだ回復せず、景気は再び下降し、金融危機が再発する恐れがある」と、週刊ダイヤモンドのインタビューに答えている。