気になる注文時の作法は?
「好きなネタを好きなように食べればいい」

 鮪は、サクを湯引きしてから漬け込み、カジキや平目は、昆布〆に。

 穴子は小さいものを選んで歯ごたえも楽しめる爽煮(さわに)にし、炙って香りを出してから、創業以来継ぎ足しているツメを塗って。

 才巻海老(車海老の小型)は甘酢に1日漬けて芝海老のおぼろを間に入れて握る。 

  鱚や玉子などにもおぼろを挟んでありますが、芝海老が手に入らない時期は、平目のおぼろを使うこともあるそうで、以前は「おっ、今日は平目だね」などと、すぐに違いが分かったそうですが、今は気づくお客様はほとんどいらっしゃらないとか。

 今回は、握りが12カンと巻物1本がセットになった「弁天山」(7500円+税)をいただきましたが、バラでいただく場合はどのようにすればいいですか? と伺ったところ、「好きなネタを好きなように食べればいいんですよ。元々はお茶受けだったんですから」と。

 なんでも、昭和16年頃までは寿司は4カンが一人前で、作り置きしておき、注文が入るとお皿に乗せて出していたそうです。それが戦時中の昭和22年には生米と引き換えの委託加工となり、10カン+海苔巻き1本という現在の基本形が生まれたとか。

「それに、脂っこいものを食べても、お茶と生姜で舌をリセットすればいいんだから。マナーも作法も気にしなくて結構。ただ、淡白なものから濃いものにした方が、たくさん食べられますけどね」

 とても温和で気さくな5代目との、カウンター越しの会話は尽きません。

「子どもの頃から店を継ぐことは決まってたからね。近所や小学校でも名前ではなく、『5代目』って呼ばれてたから。ところが、立教中学校へ進学したらまるで環境が違う。そこで初めて、自分はこのまま寿司屋になっていいんだろうかって」

 梨園の御曹司のインタビューなどでも度々耳にする話ですが、代々跡を継ぐ、老舗の暖簾を守るということは、よほどの覚悟に違いありません。

 内田さんは、寿司屋というものを徹底的に分析&研究し、その多面性から、寿司屋が自分の天職であると得心できるようになり、立教大学を卒業と同時に、父親である親方に弟子入りしたのだそうです。

「昔は他の寿司屋に行く、なんてことは互いにあり得なかったからね。他の店がどんな寿司を出しているのか知らない。自分が美味いと信じる店の味を信じ、守っているだけ」

 とはいえ、5代目はもちろん、6代目や女将さん(5代目の長女)の生活はかなりストイックです。

「寿司は生き物だから、毎日味が変わる。寿司ダネはもちろん、酢飯の加減も米や気候によって変わるから、うちでは玉子焼きの砂糖以外、分量は計らない」

 だから、味覚を保つのに体調管理はもちろんのこと、常に口をきれいにしておかなければならないため喫煙はご法度で、三連休以上の初日でないとニラやニンニク、焼き肉や韓国料理といったものは食べられないそう。

 最後に5代目の健康の秘訣を伺ったところ、「命がけで仕事をしないこと。常に70~80%の力で仕事するように心がければ、多少調子が悪くても一定の仕事ができ、お客さんに満足してもらえるからね」と。

「でもそんなことが言えるのは、大将がその域に達しているからですよ」と女将さん。

 とても居心地の良い空間で、江戸の息吹が味わえる名店です。

 


 『弁天山美家古寿司』
http://www.bentenyama-miyakosushi.com/ja/
営業時間:
昼 11:30~14:30(14:00L.O.)
夜 17:00~21:00(20:00L.O.)
日曜日 11:30〜18:30(L.O.18:00)
住所:〒 111 - 0032台東区浅草2-1-16
電話番号:03 - 3844 - 0034