2015年は戦後70年の節目でもある。増税再々延期という選択肢を断ったアベノミクスはまさに正念場を迎える。集団的自衛権ではいよいよ関連法の改正が行われ、具体的な姿が浮かび上がってくるはずだ。わが国のエネルギー構成をどうするかも決めなければならない。安倍・習会談で関係改善の糸口をつかんだ日中関係はどうなるのか。世界情勢を見れば、原油価格の暴落が暗い影を投げかけている。

平和でやさしいイメージの未(羊)年とは打って変わって、課題山積。そこで著名な経営者、識者の方々にアンケートをお願いし、新年を予想する上で、キーとなる5つのポイントを挙げてもらった。第10回は、軍事ジャーナリスト・田岡俊次氏の見通しをお伝えする。

(1)欧州がテロの巷となるか?

たおか・しゅんじ
軍事ジャーナリスト。1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。最新刊は『日本の安全保障はここが間違っている!』(朝日新聞出版)。

 1月7日から9日にかけ計20人(犯人3人を含む)の死者が出たパリと近郊のテロ事件は、すでに欧州各地に拡がっている極右集団の反イスラム、移民排斥運動を激化させ、テロの応酬になりかねない。

 フランスでは人口の8%に当たるイスラム系の人々約500万人が住む。大部分は貧困層で失業率は16%に達し、犯罪に走る者も少なくない。このため移民排斥を唱える極右「国民戦線」が勢力を拡大し、昨年5月の欧州議会選挙では得票率第1位の24.9%を取り、24議席を得た。昨年秋の世論調査では同党のマリーヌ・ルペン党首(女性)の支持率は29%でオランド大統領の14%の倍以上だ。ドイツでも事件前の今年1月5日、ドレスデンでの反イスラム極右団体「ペギーダ」の集会に1.8万人、事件後の12日には3万人が集った。他の諸国でも極右政党は急速に拡大中だ。

 差別強化が公然と唱えられ、それに大衆の支持が高まる状況では、イスラムの一部が過激な思想に引かれ、社会への報復を狙うことも起りがちだ。これに対して極右派の中にも過激な行動に出る者が現れる。ノルウェーでは2011年7月ウトヤ島で与党青年部の集会をキリスト教原理主義者の青年が襲い69人を射殺する事件が起き、昨年12月26日にはスウェーデンでモスクが焼かれ5人が負傷した。フランスでも今回のテロ後、モスク2ヵ所が銃撃を受けたり、手榴弾(火薬なし)が投げ込まれる事件も起きた。イスラムの一部がそれに反発してまたテロに向うとか、警察が監視を強化すれば、それがさらに反感を高める、といった連鎖反応も拡がりかねない。