今年は、第2次世界大戦でわが国が敗北してからちょうど70年の節目に当たる年である。天皇陛下は、新年に当たり次のようなご感想を述べられた。
「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々,広島,長崎の原爆,東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に,満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています。」
誠に陛下のおっしゃる通りであろう。近隣諸国との関係ひとつを考えても歴史を学ぶことの重要性は言うまでもないことである。今回は歴史について考えてみたい。
歴史は1つである
まず、歴史とは何だろうか。それは過去に起こった出来事をできるだけ正確に再現しようとする試みに他ならない。例えばとある要人が演説を行ったとする。それを聴いた何人かの人がメモを取る。そのメモが1次資料である。しかし、メモの内容は聴く人の価値観や興味、あるいは知識のレベルなどさまざまな要因によってかなりの程度異なってくる。従っていくつかのメモが利用できたとしても、要人の演説を正確に再現することはなかなか難しい。1次資料がなく、2次資料(演説を直接聴いた人からの伝聞を間接的に記録したものなど)しか利用できない場合は尚更である。
しかし何かの偶然で、例えば演説の録音テープのようなもの(物証)が見つかれば、演説の再現に限りなく近づくことができる。歴史とは、つまり、このようなものである。人文科学、自然科学を問わずあらゆる学問の方法論を駆使して、過去に起こった出来事(1つの真実)に少しでも接近しようという営為を歴史と呼ぶのだ。要するに歴史は1つなのだ。
その意味では、歴史学と物理学との間に大差はない。このように考えれば歴史は決して文科系の学問でないことが容易に想像されよう。歴史は総合科学であって、日々進化していくものなのだ。学問の進歩によって日々新しい事実や知見が付け加えられ、1つの姿(真実)がより鮮明に、あるいは以前とは違った姿で見えてくるのが歴史というものなのだ。