ISは米国人3名、英国人2名を殺害している。ISの「空爆停止」の要求に対して、英米政府が一切の交渉を拒否したからである。ISに屈して交渉に応じ、身代金を支払えば、ISに多額の資金を与えることになる上に、さらなる身代金獲得を狙って、テロが繰り返される恐れがある。英米が人質救出のためにできることは、基本的に「軍事作戦」しかないのである。

 今回、ISによる日本人拘束が明らかになってからの日本政府の対応を批判する声がある。政府は、身代金支払い要求に応じない一方で、中山泰秀外務副大臣をヨルダンに送りこんで人質解放に協力を要請した。だが、ヨルダンがどのようなパイプでISと交渉しているのか、交渉状況がどうなっているのか、政府はほとんど掴めなかった。特に、ヨルダンがISに対して軍パイロットの安否確認を要求し、女死刑囚の釈放を拒否してからは、交渉状況は全く見えなくなった。このように、日本政府は人質解放に無力だったように見えることに、批判が集中している。だが、そもそも日本政府はISと交渉自体、してはいけなかったのではないだろうか。

 英米のジャーナリストがISに拘束・殺害されたケースと、今回の日本人のケースの違いを考えてみたい。繰り返すが、ISが英米人を拘束した際、英米政府に要求するのは「空爆の停止」である。そして、英米政府が一切交渉に応じないので、人質は殺害されることになった。英国のジャーナリスト、ジョン・キャントリー氏が拘束されたまま、ISの広報映像にたびたび登場しているが、彼を巡っての交渉も行われていないようだ。要するに、ISが英米人を拘束・処刑するのは、ISの恐ろしさをアピールする「政治的パフォーマンス」の意味しかない。

 一方、ISが日本人を拘束した今回のケースでは、「身代金」を要求された。そして、途中で要求が身代金から「人質交換」に変わった。これはISが、日本のことをより「実利的」に考えている可能性を示している。

 英米などの有志連合による油田地帯への激しい空爆や原油価格の下落で、ISの主な収入源である原油密売が激減しているという。そこで、ISは身代金目的の誘拐による資金獲得を強化している。身代金の収入は年間40~50億円になるという。ISは、弱腰のイメージがある日本なら、多額の身代金を払うと考えて、日本人誘拐を狙った可能性がある。

 これまでフランス、スペイン、トルコなどが、人質解放のためにISに身代金を払ってきたとされる。これらの国で、その後人質事件が頻発しているわけではない。だがそれはISが、これらの国は何度も多額の身代金を払い続ける力を持っていないと考えたからかもしれない。

 一方、日本は経済大国である。国連などさまざまな国際機関に多額の資金を拠出している。世界中の新興国・発展途上国に援助をばら撒いてきた。多額の米国債を保有する「米国のスポンサー」でもある。ISは日本に対して「金持ち」のイメージを持っているだろう。