昨年12月、中国の李国強首相はカザフスタンのアスタナで開催された第13回上海協力機構(SCO)加盟国首脳会議に出席した。

 SCOは、ソ連崩壊とともに誕生した中央アジアの新興国と、その国境地帯の安定のため「上海ファイブ」(1996年4月発足)を母体に、2001年6月にウズベキスタンを加え、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6ヵ国で正式に発足した多国間協力組織である。その後、一貫して国際テロや民族分離運動などに対する共同対処を主要テーマに掲げてきた。

 第13回のSCO首脳会議は安全保障が最重要課題となった。李国強首相が「地域安全・安定のバリアをしっかりと築く」――と述べた背景の1つには、中国新疆ウイグル自治区からのウイグル人の流出問題がある。近年来、数千人にも上るウイグル族が中国を脱出しているとも言われているのだ。

ムスリムであるウイグル族と
漢民族には深い断絶が

中国国内テロ過激化の陰に「イスラム国」の存在ムスリムたちのアイデンティティは中国ではなく西方に

 新疆ウイグル自治区では少数民族に対する抑圧、弾圧、差別が過去から存在したが、それがより強化される昨今、ウイグル族は以前にも増して中国から脱出するようになった。

 昨年は中国各地で暴力事件がたびたび起きた。中でも新疆ウイグル自治区といえばテロの多発地で、2014年5月のウルムチ市の爆発事件は中国全土を震撼させた。「爆発があと3時間遅ければ…」と、新疆訪問中の習近平国家主席を狙ったとされる犯行の大胆さに、中国の民衆は肝をつぶした。

 この爆発事件後、新疆ではテロ活動に関わったとされる数百人が逮捕され、12人が死刑判決を受けた。近年はこうした暴力事件が繰り返されるたびに、ウイグル族に対する高圧的な締め付けがその度合いを増すようになっている。

 ちなみに、ウイグル族と言えば、遊牧民をルーツとするウイグル語を話すムスリムであり、中国の9割以上を占める漢族とはまるで違う。わかりやすい例が、サッカー・ワールドカップであり、中国ではなくトルコを応援するウイグル族は少なくない。