21世紀を生きる我々にとって、洋服は大量生産された製品から選んで「買うもの」ですが、数十年前まで、特にスーツは、テーラーで「仕立てるもの」でした。しかし、既製服の普及により、職人の数も減少、高齢化が進んでいます。そうした中、手縫いでスーツを仕立てる伝統的な技術を残そうと、若い職人たちを育てる銀座テーラーを取材しました。

[写真]真嶋和隆

昔は“煙草店の数ほど”あったテーラー

 銀座テーラーは1935年創業、テーラーメイドの紳士服を手掛ける銀座の老舗テーラーです。顧客一人ひとりの体型、好みに合わせてデザインを決め、型紙を起こし、裁断します。最高級の生地を使い、ひとりの職人がほぼ全て手縫いによって仕立てるスーツは職人の技の結晶。見えない裏地にまで細かなステッチが施されるなど、丁寧な手仕事が光ります。

 職人のこだわりの詰まったスーツは、ふんわり柔らかな丸みを帯び、既製服との違いは歴然。着心地も着る人の動きを妨げずフィットし、一度袖を通すとやめられない、と長年愛用する顧客が多いそうです。

 日本に洋服が普及した明治以降、スーツはテーラーで仕立てるのが一般的でした。日本中どの町にも煙草店と同じくらい身近な存在としてテーラーがあり、そこで働く職人の数も多かったのです。

 しかし、既製服の普及に伴い、オーダーメイドのテーラーは徐々に減少し、職人たちも高齢化。特にハンドメイドスーツを仕立てる伝統的な技術の継承は難しくなっています。