松江 現在の長期計画は2019年に迎える創業100周年を見据えたものになっておられますね。

松江英夫(まつえ・ひでお)
デロイト トーマツ コンサルティング パートナー Strategy&Operationsリーダー。中央大学ビジネススクール大学院戦略研究科客員教授(「実践・変革マネジメント論」)、事業構想大学院大学客員教授。「経営変革」に関わる戦略・組織領域のテーマ(成長戦略、M&A、イノベーション、グローバル組織再編)などを多数展開。主な著書に『ポストM&A成功戦略』、共著に『クロスボーダーM&A成功戦略』(いずれもダイヤモンド社)など。
本連載をベースにした書籍をダイヤモンド社より発売予定。

木川 ちょうど2019年が100周年になることを考慮しています。創業から100年に及ぶ時間軸の中で、我が社には3回に及ぶイノベーションの軌跡があると捉えています。

 当社の歴史を振り返ると、日本で初めて東京―横浜間で路線トラック事業を始めたのが1回目のイノベーション。それから約40年後に小倉昌男さん(元ヤマト運輸会長)が始めた宅急便が2回目のイノベーション。それから時間が経って、GDPの伸びが落ち、人口減になっている。いくら頑張っても内需産業でいるかぎり、トップランナーでも成長できないのは見えてきた。「そのまま成長は絶対できない」と有富さんが煽った危機感です。

 そして3回目はフィールドを大きく変え、事業ポートフォリオのイノベーション、あるいはコスト構造を抜本的に変えるというイノベーションです。前の2つは日本初の事業を生み、それを徹底的に追求するイノベーションそのもの。その点、第3のイノベーションはこれまでの業態転換のイノベーションとは違いますが、われわれの成長戦略としては、大きな経営のイノベーションです。

 宅急便は、「C to C(個人から個人への荷物)」から始まっている。その、「to C(個人へ出荷される荷物)」で圧倒的に強い小口の物流の仕組み、そのネットワークを国内に張り巡らせてきた。その強みを活かしながら、ニーズが増えてきた「B to(企業から出荷される荷物)」にどう向き合うか、どう見極めるかが10年先を見ながらの長期成長戦略のポイントです。

 このとき3つの前提条件を考えました。ひとつは、企業物流もますます小口多頻度輸送が進んでいく。つまり、今までのようにコンテナで運んで、倉庫に入れて、そこから小口で出して荷物を流す「在庫型物流」から、はじめから小口化された荷物をできるだけ在庫を圧縮しながら、小口で多頻度にお届けする「小口多頻度輸送」へという流れです。かつ、モノの流れが日本国内で小口化するのではなく、輸出自体も小口化している。日本の貿易通関では、例外的にEMS(国際スピード郵便)を除いて、小口輸送は本当にマイナーです。われわれはそこに入り込んで、小口で多頻度輸送かつボーダレスで海外につなげる。

 2つ目はeコマースが大きく成長する時代になるということ。そして3つ目は、人口減で労働力需給が逼迫化して人件費負担が圧迫要因になる。これに対するコスト構造改革が絶対必要ということです。10年前に成長戦略を考えたとき、この3つを前提条件として設定しました。すべて長期レンジで起こりうる状況を想定して戦略を考えたのです。

松江 その中の目玉のひとつが「バリュー・ネットワーキング」構想ですね。

木川 そうです。「B to(企業から出荷される荷物)」においても、圧倒的な強みを持ったグローバルな総合物流企業になる。日本のモノづくりを担う第一次産業、第二次産業の国際競争力の原資こそ、物流にあると考えています。