介護費用の大部分は、保険と公費で賄うことになっている。これが介護に関する現在の日本の基本思想である。
介護保険においては、費用の1割を利用者が負担する。残りの9割は公費と保険料で賄われ、その比率は50%ずつである。具体的には、国25%、都道府県12.5%、市区町村12.5%、第1号被保険者保険料19%、第2号被保険者保険料31%が原則とされている。なお、現行の65歳以上の平均保険料は月4090円で、制度発足当初の月2911円の4割増になっている。
ただし、2006年の改正で、介護保険施設にかかる費用に関しては、国20%、都道府県17.5%の負担としている。介護保険施設の指定・開設権限が都道府県にあるため、権限者の負担を多くすべしと考えられたためである。
公的主体の関与が必要になる理由
一般に、市場ではなく公的主体が提供すべきサービスは、数多くある。なぜ公的主体が提供しなければならないかの理由は、つぎのようにいくつかある。
第1は、費用を払わない人をサービスの享受から排除できない場合だ。たとえば、防衛、警察、司法などがそれにあたる。これらは「公共財」と呼ばれるカテゴリーであり、私的主体では費用を回収できないので、政府が提供せざるをえない。
第2のカテゴリーは、「外部経済」と呼ばれるものが存在する場合だ。たとえば、教育から生じる利益は、教育を受けた人だけでなく、社会一般に及ぶ。しかし、教育を受ける人は自分の利益に相当する費用しか払おうとしない。したがって、供給を市場にまかせると、過少供給になる。医療サービスについても、同じことが言える。これとは逆に、社会一般に対して負の便益が生じる場合を、「外部不経済」が存在するという。外部経済・不経済効果がある場合には、市場は最適な資源配分を実現しないので、政府の関与が必要になる。
ところで、介護については、こうした側面はない。それにもかかわらず介護サービスの供給を完全に市場にまかせられない理由は、つぎのとおりだ。
第1に、提供されるサービスの内容を、あらかじめ判断することが難しい。これは、「情報の非対称性」と言われる問題である(サービスの供給者はサービスの内容を知っているが、サービスの需要者が知らないため、こう呼ばれる)。こうした問題がある場合にサービス供給を市場にまかせると、サービスの質が低下するおそれがある。したがって、介護サービスの内容について、公的主体がなんらかの関与をする必要がある。