営業時間中は掃除や片づけができず、決して効率はよくありませんが、見られることで人は成長するといいます。

「オープンキッチンは舞台。ここでは全員が主人公です。だから『自信がなくても、なりたい自分を本気で演じなさい。いつの間にかなりたい自分になっているから』と話しているんです」

 また、客の顔が見える、ということも料理人たちの成長につながっています。通常の料理店では、料理人は客の姿を見ることはありません。「料理人が何を見ているかというと、料理長の顔色です」

 一方、「六雁」では、オープンキッチンのおかげで、自分がつくった料理を食べる客の姿を、すぐ目の前で見ることができます。また、料理を運ぶなど、料理人もホールスタッフと共に接客を行います。「お客様と直に接することで、お客様のために心を込めて料理をするようになります。みんな、お客様を喜ばせようと、常にお客様を見ています」。

「お客様との間に起きたストーリー」を共有する

 毎日午後1時から1時間ほど行われる、全員集まってのミーティングでも、内容は「お客様の話ばかり」。

 前半は、前の晩を振り返り、「あのお客様は人参が苦手だった」「お客様の会話を中断してしまった」「どうすればもっと喜んでもらえただろう」などと全員で話し合います。なお、顧客に関する情報は全員で共有した後、全て顧客リストへ記入します。後半は、今晩の予約客についての話。「前回はこうだったから、今回はこうして喜ばせよう」「記念日のあの方にはサプライズを用意しよう」といった具合です。