上下関係の厳しい和食の世界。見習い中の新人たちは『坊主、あひる、追い回し』などと呼ばれ、まず人間扱いされないといいます。この育成法に真っ向から異議を唱えたのが銀座「六雁」のディレクター榎園豊治さん。なんと彼は和食料理店には珍しい「オープンキッチン」を取り入れ、若手をはじめ料理人たちの仕事をお客様の視線にさらすことにしたのです。一人ひとりを主役にする教育法は成功するのでしょうか?そして、お店の経営は成り立つのでしょうか――。

〔写真/真嶋和隆〕

オープンキッチンは料理人たちの舞台

 開店後1年ほどは、ほとんど客が訪れず、料理を教えたり、ミーティングをしたりしては夢を語る日々。

「お客様もいないのに『いつか百貨店からおせちの依頼が来るから』『いつか企業の人が、人材育成の参考に見学に来るから』『スペインの世界料理学会からオファーが』なんて予言をしていました」と、榎園さんは笑いますが、徐々に客足が伸び、ほとんどの予言は現実になっているといいます。

「みんなリーダーの背中を見ているんです。だから、なにもすごいことをする必要はなく、『この人についていくと面白いことがあるかも』というだけでいいんです。そして、頑張れば夢は叶うのかも……という雰囲気が出てきたらしめたものです」

 榎園さんの情熱とリーダーシップが、若い料理人たちの成長のバックボーンになっていることは確かですが、もう1つ、期せずして料理人たちの成長に大きく貢献したものがあります。それは、店の中央に位置するフルオープンキッチンです。

 オープンキッチンには、常に見られているという緊張感があります。料理の手際はもちろん、会話や立ち居振る舞い全てが客の目、そして同僚の目にさらされています。