『週刊ダイヤモンド』2015年5月2・9日合併号の特集は「人事部の掟 あなたの異動・昇進・昇給はこう決まる!」。その中から、会社の“伏魔殿”と見られがちな人事部の思考回路や行動様式をつまびらかにし、その正体を解き明かします。
「奥さまのお加減はいかがですか。転居を伴う異動は難しいですよね──」。あるメガバンクの人事部員は、半年に1回、全国の支店を巡っている。これはという行員と直接、顔を合わせてヒアリングを続けているのだ。
彼の脳内メモリには、行内の主要な管理職2000人分の個人情報が整理整頓されて、しまわれている。その個人情報の範囲は多岐にわたる。行員のフルネームはもちろんのこと、銀行で最も重要な入行年次、顔、出身大学──。実はこの程度ならば、人事部中堅クラスならそらんじているという。
転歴、過去の賞罰、直近3年分の評点、簡単な適性、家族構成──。この辺りから、プロの領域に入っていく。冒頭の人事部員もその1人といっていい。
夫人の健康状態や親の介護の有無、子供の受験など家族の情報に始まり、馬が合う上司・部下は誰か、逆に反りの合わない上司・部下は誰かといった職場での関係性など、全国を訪れては、最新情報を常にたたき込んでいるのだ。
信用を重んじる銀行は完全なる減点主義。「仕事だけでなく、普段の生活でも大きなバッテンが付くと、出世レースから確実に外れる。高学歴の連中が多くいる以上、ふるいにかけるしかない」とあるメガバンク行員は肩をすくめる。
「2000人なんてもんじゃない。3000人は入っているよ」──。ある大手製造業のベテラン人事部員はこう豪語する。この部員が、人事を「アートの世界」とうそぶくのもうなずける。
あなたの周囲を見渡せば、他人の出身校や誕生日、血液型がすらすら言える人がいるかもしれない。だが、人事部が違うのは、入手し蓄積した情報が、サラリーマンの人生を左右する異動や昇進、昇給などの判断材料になるという点だ。いくら一つの人事が最善でも、それによって他の多くの部署にしわ寄せが来たら台なしになる。
一人一人のキャリアパスも考えながら、ガラス細工のように繊細な全体像を作り上げていく──。そんな職人芸ができるのは自分たちだけというのが、誇り高き人事部員の美学なのだ。