英国の総選挙は、与党・保守党が28議席増で単独過半数(下院定数650)越えの331議席を獲得し、「地滑り的大勝利」となった。一方、連立与党の自由民主党は48議席減の8議席と惨敗し、最大野党の労働党は24議席減で232議席にとどまった。今回、注目が集まった地域政党については、スコットランド民族党(SNP)が、スコットランド選挙区で集中的に票を得て、6議席から56議席へと大幅に増やしたが、欧州連合(EU)離脱を主張する英国独立党(UKIP)は伸び悩み、1議席にとどまった。

 投票日直前まで保守党・労働党の支持率が34%ずつと拮抗する、史上まれにみる大接戦となり、どの党も過半数を取れない「ハング・パーラメント(宙ぶらりん国会)」になるとみられていた(第105回を参照のこと)。しかし、予想に反して、保守党の単独政権が発足する見通しとなった。

財政再建を貫いたキャメロン政権の勝利が、
財政再建できない日本政治に与える示唆

 保守党勝利の一因は、ディヴィッド・キャメロン政権が5年間かけて進めてきた経済財政政策が、土壇場で評価を高めたことである。前回の繰り返しだが、リーマンショックによって、英国経済は「Great Recession(大不況)」と呼ばれたほど悪化し、労働党政権が大規模財政出動を行ったため、膨大な財政赤字を抱えていた。2010年の総選挙後に発足したキャメロン政権は、財政再建に取り組むこととなった。

 まず、2011年1月に日本の消費税にあたる付加価値税の税率を17.5%から20%に引き上げた(第25回を参照のこと)。そして、「総選挙を5年ごとに5月の第一木曜日に行う」ことを定める「2011年議会期固定法」を制定した。政権の任期である5年間、議会を解散することなく財政再建にしっかり取り組む不退転の決意を、英国民に示したのだ(第105回を参照のこと)。

 キャメロン政権の支持率は低迷し、長期にわたって労働党に10%以上のリードを許すことになった。だが、緊縮財政の断行と、住宅市場活性化や法人税率のEU最低水準への引き下げによる海外企業の誘致や投資の積極的な呼び込み、量的緩和政策の実行などを巧みに織り交ぜた経済運営は、次第に効果を現し始めた。

 2009年には、マイナス4.3%まで落ち込んでいた実質GDP成長率(対前年比)が、14年に2.6%まで回復した。12年1月には、8.4%に達していた失業率も5.7%まで下がった。そして、公的部門の純借入額も14年度の902億ポンドから激減し、18年度から黒字に転ずると予測されるようになった。総選挙が近づくにつれて、キャメロン政権は支持率を急回復し、労働党を猛追した。そして、総選挙当日、保守党は遂に大逆転したのである。