前篇で解説されたように、異次元金融緩和政策は本質的な解決策ではないうえに、弊害が非常に大きいというのが債券取引のプロであるお二人の認識です。では、我々は一体どうするべきなのでしょうか? これから私たちは、どういう世界に生きていかなければならないのでしょうか? そして日本はどのような国になるべきなのでしょうか?

前提におくべき「成長しない」という事実

――異次元金融緩和政策は本質的な解決策ではないということですが、どのような形をとっていくべきでしょうか?

松村 まずは、現状を正しく認識することです。自著で詳しく述べましたが、我々は成長しない、全く“新しい時代”に生きているのです。

 私は長年債券の投資をしてきて、長期金利が本格的な上昇に入ると考えたことは一度もありませんでした。80年代に16%あった米国の長期金利は基本的なトレンドとして低下し続け、1%台にまで割り込んできました。日本も欧州も同様です。長期金利は“成長できない世界”を的確に織り込んできたのです。1970年台には日・米・英・仏・西ドイツの、いわゆるG5が世界のGDPに占める割合は約70%でした。ところが、新興国の台頭もあり現在では約30%前後になっています。世界経済で新しい付加価値が生まれることもありますが、コアの経済価値はゼロサムです。

松村 つまり、世界経済の“成長”は全体としては大きく低下する、と。

 おっしゃるとおりです。これに、多くの先進国が直面している少子高齢化による人口減少の要素を加味すると、世界経済は低成長とデフレないしディスインフレの様相を呈してくるだろうと考えたわけです。「米国は日本のようにならない」と言っていた米国の経済の専門家ですが、最近になってようやくサマーズ元財務長官が「長期停滞論」を言い始めるなど、ようやく「成長できていないこと」に気が付き始めました。成長しないジャパナイゼーションは、日本固有の問題ではなく世界に共通する問題なのです。

松村 我々は「人類は成長の歴史を歩んできた」というイメージを持っていますが、実はそんなことはないんですよね。実質的に成長したのは、せいぜいここ数百年の話。それまでは、ほとんど横ばいの世界でした。この数百年が特別な時代だったといえるかもしれません。この事実はアンガス・マディソン氏の研究によって明らかになりました。

 成熟期に入った今、成長は止まろうとしている……つまり、元に戻ろうとしていているのです。

松村 そして、日本は成熟した先進国の中でも、もっとも早く成熟した“先進国中の先進国”。いわば、フロントランナーです。我々、日本人は“未知の世界”を最初に切り開いていかなければならない運命にあるといっていいでしょう。

林宏明(はやし・ひろあき)
フコクしんらい生命保険取締役執行役員財務部長。
1982年早稲田大学法学部卒。同年、富国生命保険入社。証券金融市場での経歴は25年近くに渡る。富国生命保険では国内の国債・地方債・財投機関債、海外の国債、地方債、エージェンシー債、カバードボンド等幅広く内外公社債市場の運用を担当するとともに、短期金融市場での運用にも従事。また、内外のクレジット市場、証券化商品の投資には深く関わってきた。現在は、フコクしんらい生命保険において、公社債市場・株式市場を始め、資産運用業務全般を統括している。