不安定な世界でものを言うのは国家の信用力
――お二人は、今後の世界がどのようになっていくとお考えでしょうか?
林 成長が止まっていく世界では、不安定化していくことは避けられないでしょう。イアン・ブレマー氏の言うような「G0」の世界で、国際秩序は大きく変容しようとしています。中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)はその象徴的な事例ですね。AIIBとADB(アジア開発銀行)のような対峙など、これまでの常識では考えられない話です。そして、成長できないので税収不足に陥っているのは、何も日本に限った話ではなく、他の国では徴税権(罰金を含む)を他国に対して積極的に行使する例が多くなっています。
松村 欧州では、米国企業のGoogleが独占禁止法違反で多額の罰金を科されようとしていますね。
林 ええ。米国でも欧州の金融機関がスーダンへの送金に対して兆円単位の制裁金を取られていますし、これからの世界経済はますます奪い合いの様相を呈してくるでしょう。そのためにも財政力を確保することが安全保障上も極めて重要なファクターとなってくるのです。
松村 我々が生きている社会システムは、すべからく成長を前提としたものです。貨幣経済だって、そうです。あまり認識されていないかもしれませんが、実は我々がふだん使っている貨幣ですら成長を前提にしています。貨幣を“信用”によって生み出す銀行が生まれたのも、成長が軌道にのって自然利子率が安定的にプラスになり、信用創造することが安定的に利益になっていったからです。
林 ああ、そうですよね。そもそも、現在の民主主義という政治体制も成長とともに生まれたものです。すべては「成長」がベースになっている。
松村 このように、あらゆる社会システムの前提が「成長」だとすると、成長が構造的に止まることで世界的に機能不全を起こしてしまう。林さんがおっしゃるように、世界が不安定化していく可能性が高いでしょう。その結果、将来なんらかの危機に直面する可能性は否定できません。
林 そういう事態を見越して、国としてのゴーイングコンサーンを考えた長期的なものの考えが必要だということですね。
松村 そのとおりです。危機に直面した時に物を言うのは、国家の財政力。ショックを吸収するのは国家の信用力にしかできないことです。国家は、いわばゴールキーパーなんですね。ところが、現状はゴールキーパーがフォワードより前に出て、得点しようと、つまり成長しようとやっきになっている。本来、“負の分配”を行ってゴールキーパーを強くして、守りに強い体制にしなければいけないのに、です。目先の得点をとることに目を奪われて、ゴールキーパーを前線に投入して疲弊させるようなことをしているわけです。
林 国家の信用力を使い尽くしてしまいますね。
松村 ええ。そんなときに大きな危機が来たらどうなってしまうか。言うまでもないでしょう。
林 おっしゃるとおりですね……。今日は貴重なお話をありがとうございました。
松村 こちらこそ、ありがとうございました。