「なぜ仮設住宅でワークショップをやったのか。もちろん必要な家具が行き渡っていないということもありましたが、仮設住宅での暮らしはおそらく2~3年は続き、快適に暮らすスキルがあるかどうかが住民の生活の質を左右すると考えたからです。仮設住宅は狭いし、暑さ寒さ、防音の問題など住みづらい要素が多い。壁に毛布をかけるとか、暮らしを良くするためのちょっとした工夫ができるかどうかって、結構大事なんです。われわれは製品作りと同時に、そういうスキルも地域に残していきたかった」(芦沢氏)

自分の手で作り
暮らしを豊かにする

 石巻工房からいくつかの製品が生まれる中で、芦沢氏がぼんやりと持っていたブランドの姿は次第に明確化していく。それは現在の「スモール・アウトドア」というコンセプトに集約されている。

「震災直後の石巻ではあらゆるインフラが遮断され、毎日がテント生活のようなものでした。制限された状況で、手に入るものを使って何とかしなければいけない。そこで必要になるのがサバイバルスキル。生き延びていくための技術です。そこから生まれた石巻工房の製品は、シンプルだけれども軽くて頑丈で、持ち運べば狭い場所でいろんな用途に使える。少人数でバーベキューができるとか、ベランダでお酒が飲めるとか。ある空間に家具を持ち込むことで、生活を楽しくすることができるんです」(芦沢氏)

製品化された石巻ベンチ。ナチュラルな雰囲気で、どんな場所にも溶け込む

 石巻工房の家具は、塗装されていない無垢の木を使っている。木の匂いと肌触り、そしてムダを削ぎ落した美しさは、まさに制限された環境から生まれたものである。

 偶然ではあるが、仮設住宅など不便な状況を想定して作られた家具は、東京など狭い住環境での使い勝手が良い。「アウトドア」と「都市生活」という、一見相反する2つを結び付けたのが、石巻工房の家具の面白さだ。

 その家具の魅力が徐々に口コミで広がるようになり、「製品を買いたい」という問い合わせが入るようになる。11年も終わりに近づいたころのことだ。

「これは、ビジネスになるかもしれない」。芦沢氏の中で事業化への思いが芽生えていく。まずは受注した製品を作って売るため、地元の元・鮨職人で、DYIが趣味の千葉隆博氏が「工房長」としてアルバイトをすることになった。実家の鮨屋が津波で被災し、新たな将来を探っていた千葉氏は「とりあえず」のつもりで引き受けたと言う。しかし彼はやがて、石巻工房を支えるリーダーになっていく。

>>後編『生きるために作る!~震災から生まれた世界初・DIY家具メーカーがアツイ』に続きます。