「大阪都構想」の是非を問う住民投票が今月行われ、反対多数で否決された。橋下徹・大阪市長は政界引退を表明したが、大阪経済の立て直しという本来の課題は残されたままだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)
(2)橋下市長は街頭演説で「大阪が変わる最初で最後のチャンス」と訴えた
(3)反対派は「大阪市をなくすな」と党派を超えて結集し、維新に対抗した
(4)有権者が下した判断は大阪市の存続。今後は総合区導入の検討を進める Photo by Takeshi Shigeishi
「こんな最高の終わり方ないじゃないですか。本当に悔いがない」
5月17日夜、大阪市内ホテルの記者会見場に姿を現した橋下徹市長は、拍子抜けするほどすがすがしい表情だった。2008年1月に大阪府知事選で初当選して以来、膨大な政治エネルギーを注ぎ続けた都構想実現の野望がこの日、ついえた。それでも66.83%と高い投票率を記録し、反対票に約1万票差まで迫った結果に橋下市長は「納得できる」と時に笑顔を交えながら話し、「負けは負け」と敗北を素直に受け入れた。
確かに、橋下市長にしてみれば「終わった」のかもしれないが、270万人の大阪市民にしてみれば何も終わっていない。大阪の止まらぬ地盤沈下や借金まみれの現実は何も変わらないからだ。
「都構想廃案で改革が一気に進む可能性がある」。大阪市のある職員は小声でささやく。
反対派が都構想の問題点の一つに挙げていたのが、財政効果額の「水増し」だ。効果額の中には、市営地下鉄などの民営化に伴う売却益や税収も含まれていたが、これらは都構想でなくても実現できる市政改革案件だ。
橋下市長率いる大阪維新の会と対立する自民党や公明党の市議の中には、実は民営化推進論者も多いが、都構想や橋下市長に対する不信感がネックになって市議会はデッドロック状態に陥っていた。都構想という対立軸がなくなれば、自公が民営化賛成に回る可能性が高いというわけだ。
また大阪ではここ数年、円安や関西国際空港へのLCC(格安航空会社)の増便などの影響で、外国人旅行者の数が過去最高を更新し続けている。
なんばや梅田では「爆買い」する中国人の姿を見掛けることは珍しくないが、宿泊施設の供給などが追い付いていない。観光インフラを早期に整備し、大阪の成長につなげる作業が急務だろう。