英国がEUから離脱した場合、外資企業からの投資が減ることに加え、失業率が高まるなどの経済不況が予想される。実際、ロイター通信が伝えたところでは、欧州の航空大手エアバス・グループ英国拠点のポール・カーン社長は、もし英国がEU離脱の道を選ぶ場合、同社の英国拠点への投資に疑念が生じ、地元の雇用が打撃を受けると指摘している。

 また、英国銀行協会(BBA)が、EU離脱に関する国民投票が終わるまで、英国への投資を見合わせる銀行が出始めたとも報告しており、HSBCとスタンチャート以外の銀行も何らかの対策を取る可能性が高い。

アジアに拠点を移す理由は
富裕層サービスと貿易金融需要の拡大か

 一方、アジアでは、銀行が拠点を置く魅力は大きい。域内経済の活況に伴う富裕層向けサービスと貿易金融需要の増大だ。リテール、証券事業、投資銀行事業といった、これまで銀行の収益を支えてきた事業の利益率が下がっている中、収益の新しい柱として期待されている。

 アジアへの本社移転は、銀行側の戦略とも合致している。スタンチャートは現在、事業再編で大規模なリストラを実施している。今年1月には、同行が世界各地のリテール部門の行員約4000人を削減する方針を固めたという内部文書が明るみにでている。代わりに強化するのは、富裕層向け事業だ。同行はまた、株式事業からの撤退も進めている。

 貿易金融に関しては、アジアの貿易ハブであるシンガポールにおける、銀行ごとの市場浸透率を見ると、HSBCとスタンチャートにとって、同事業がいかに重要かが分かる。調査会社グリニッチ・アソシエイツが実施したシンガポールの多国籍企業向け貿易金融市場浸透率調査で、HSBCがシンガポールの地元銀行を抑え46%で1位、スタンチャートが42%で2位となっているのだ。

 グリニッチによると、アジア地域では貿易金融を新たな資金調達手段として活用する企業が増加している。これらの企業は貿易資金を調達するときに調達先となる銀行を選定するのだが、選定されるのは、アジア域内で強力なネットワークを持つ銀行なのだ。

 HSBCとスタンチャートは、いずれも19世紀からアジアに拠点を置き活動しており、域内のネットワークは豊富にある。ただし、グリニッチの調査では、シンガポールの地元最大手銀行DBSが貿易金融市場浸透率で42%と市場占有率を急速に拡大するなど、地元銀行も追い上げており、競争は熾烈だ。

 英銀がアジアの貿易金融市場でしっかり足場を固め、地元銀行の追い上げを振り切るために、本社をアジアに移すという大胆な選択を検討することは、不思議なことではないだろう。

(細谷 元 & 5時から作家塾(R))