アジア域内における取引で人民元が主要取引通貨の一つとなる可能性がある。香港上海銀行(HSBC)がこのほどまとめた報告書によると、アジア市場、とりわけ香港、台湾、シンガポールでの人民元決済貿易が増えるという。アジア域内における人民元の動向から、アジアにおけるオフショア人民元の現状と今後の展望をご紹介しよう。

人民元利用を促進する
マレーシアとシンガポール

 2015年4月15日、マレーシア政府は首都クアラルンプールに、中国人民元決済銀行業務を担う中国銀行を設置した。これまでマレーシア・リンギを人民元に替えるには一度米ドルに替える必要があったが、人民元決済銀行が開設されたことで、リンギから直接、人民元に替えることが可能になった。

米ドルに代わって決済通貨として存在感を高めている人民元 Photo:Freer-Fotolia.com

 決済コストを低減することに加え、流動性リスクを減らすことが狙いと言われている。また同日、マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジアは、銀行間カード決済サービスを提供する中国銀聯(ユニオンペイ)との提携を発表した。これにより航空券を人民元で決済することが可能になるという。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)での人民元決済銀行開設はシンガポールに次いで2ヵ国目となる。

 シンガポールが人民元決済銀行を設置したのは13年5月。その後、同国におけるオフショア人民元の取扱量は急増し、14年4月時点で中国と香港を除いた人民元取扱量が、英国を抜いて世界1位(スウィフト調べ)になった。さらに同国では、シンガポール取引所(SGX)が15年4月、人民元建て金融商品の拡充で、中国銀行(BOC)との提携を発表している。

 こうした諸事実を並べて分かることは、アジアにおける主要取引通貨として中国人民元の重要性が高まっているということだ。

 実際、英金融大手のHSBCはこのほど発表した報告で、アジア市場での人民元建て貿易決済が拡大する見込みが大きいと指摘している。この報告によると、人民元建て貿易決済は2020年までに中国の貿易総額の50%を超えるという。ちなみに2014年は22%だった。