ドル円の上昇トレンド観に変わりはない。ところが、5月前半、世界中で相場の基調観をくらます動揺が生じた。昨年来、米経済の独り勝ちを受け、世界には大量のドルのロング(買い持ち)が積まれ、ユーロ、円、新興国通貨はショート(売り持ち)が膨らんだ。ドル独歩高で圧迫されるドル建て取引の商品相場はショート。米利上げが模索される一方、日欧など他の国々は多くが金融緩和を進め、広く債券ロング、株式ロングだった。
これら一連のポジションの巻き戻しを惹起したのは米景気の足踏みだ。今年1~3月期の米経済は、寒波、港湾スト、原油安でのシェールオイル部門の打撃で失速した。その余波は4~6月期も続いている。それでも米経済が優勢との見方が根強かった間、ドルロングの巻き戻しは限定的だった。4月初めには弱い米雇用統計を受けてドルが売られたが、ユーロは上値が重く、逆に安値を探りに転じた。
しかし、その後も弱い米経済指標が続き、ユーロショートが買い戻される。堅調な米経済は脆弱な世界経済の回復にとって唯一の頼り。その足どりが弱まったため、ドル反落で原油価格が反発し、資源輸出国通貨として豪ドルや、苦境下のブラジルレアルまで買い戻された。マイナス金利になるまで買われた欧州債のロングも巻き戻されて金利が上昇し、株式はロングの巻き戻しで値を下げた。これらをファンダメンタルズで整合的に説明する試みは徒労だろう。要は既存ポジションの調整だ。