これまでアドラー心理学についていろいろなことを語ってきた片桐仁・岸見一郎・古賀史健の3氏。鼎談も最後に近づいたころ、片桐さんが絞り出すように言ったのは「……やっぱり、褒められたい!」の一言。承認を求めてはいけない、因果律を否定する、課題を分離する……アドラー心理学の教えは、腑に落ちるものの実践するのが難しいことばかり。さて、悩みから逃れるためには、どうしたらよいのでしょうか。(構成:崎谷実穂、写真:田口沙織)
アドラー心理学は
なぜ無名だったのか?
片桐仁(以下、片桐) アドラーはなぜフロイトなどに比べて、日本ではこれまでそんなに知られてなかったんでしょうか。こんなにすごい心理学を生み出したのに。
岸見一郎(以下、岸見) これはぼくの人生にも重なるところがあるのですが、アドラーはあまりアカデミズムの世界に生きなかった人なのです。もし彼が有名な大学で教えていたり、大学にアドラー関係の論文を書く研究者がたくさんいたりしたら、日本でももっと早い時期から知られていたかもしれません。
片桐 では、そういう研究が増えていくのは、これからということでしょうか。
岸見 そんなこともないと思います。というのもアドラー自身が、大学などの権威を必要としていなかったからです。彼はアドラー心理学を、「みんなの心理学」だ、と言い切っています。アメリカに拠点を移してから、ニューヨークの医師会がアドラー心理学を精神医学の理論として採用したいと申し出たこともあるのです。ただし条件があって、今後は我々だけにアドラー心理学を教えてほしいと。それを聞いて、アドラーはその申し出を拒否しました。
片桐 みんなの心理学だから、独占させることは意に反すると。たとえ医師会であっても。
岸見 アドラー心理学に関わっている人は、そういう精神を今でも引き継いでいる人が多いのです。