できるだけ自宅に近い環境が
推進されてきたのに…

 では、今回の地方移住策が本当に適切であるのだろうか。いろいろの問題がある。まず第一には、厚労省が掲げる「地域包括ケアシステム」に矛盾する施策であること。

 地域包括ケアは、どんなに高齢になり、あるいは要介護状態が進んでも、これまで住み続け慣れ親しんだ地域で各種の在宅医療や介護サービスを受けながら、最期まで暮らし続けましょう、ということだ。

 地域包括ケアの考え方は、日本だけでなく、欧州ではすでに定着している。要介護高齢者が遠隔地の大規模な病院や施設でずっと居続けるのは、暮らしとは言えない。尊厳を損なうとの考えから、「脱病院」「脱施設」に舵を切っており、20年前から加速させている。

 自宅介護が適わなければ、できるだけ自宅に近い環境の近所のケア付き住宅への引っ越しが推奨されてきた。「第二の自宅」という位置づけだ。

 創生会議の移住提言は、こうした生活者としての当然の思いに反する。ベッドの多寡によって、高齢者を駒のように動かすようなものである。長い間の地域での暮らしで培ってきた「絆」を簡単に断ち切り、縁もゆかりもない地方に住むという発想は、数字のお遊びでしかない。

 もちろん、定年後の田舎暮らしを希望する人は、「どうぞ自力でご自由に」である。だが、この提言は税金が絡む。移住提案がCCRC構想に直結し、新型交付金を投入する施設作りにつながる恐れがある。税をかけてまで器を作り、移住を促進するのは大いに疑問である。

 東京都杉並区が静岡県南伊豆町に特養を建て、同区の特養の待機高齢者を移住させる計画案を作り、国交省の検討会で昨年了承された。区民約50人が入所する特養を2018年に開設する。今回の提言の先駆けと評価する識者もいるが、「待った」である。

 同検討会では、「南伊豆町は杉並区と交流を続けてきた経緯があるので特別に認める。一般的に遠隔地での特養建設を了解したのではない」という注文が付いた。「諸般の事情でやむなく」というのが同検討会の判断だった。委員の1人、高橋紘士・国際医療福祉大学教授(当時)が、締めくくりの会議で切々と反対論を述べた事実を忘れてはなるまい。