毎日目にする金融市場のニュースでは、相場を動かすキーワードとして「市場関係者や投資家の心理」がよく出てきます。彼らの考えていることに、何か法則はあるのでしょうか。今回ご紹介する『行動ファイナンス~市場の非合理性を解き明かす新しい金融理論』には、金融市場の心理戦を読み解く手がかりが書かれています。
金融市場の心理戦を
解き明かす「行動ファイナンス」
6月10日、日本銀行の黒田東彦総裁が実質実効為替レートを引き合いに出し円安を牽制、円高を招くような発言をしたとして国会で釈明に追われました。
為替介入など日本の為替政策を管轄するのは、日銀でなく財務省。黒田総裁が「実質実効為替レートは特定2国間の相場を占うものでない」などと火消に回り、「為替相場は、経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を反映し、安定して推移することが望ましい」と付け加えたのも当然でしょう。
ただし、為替市場が「経済のファンダメンタルズを反映し安定して推移する」のが不可能であることもわかっているはずです。為替を筆頭に金融市場は「心理ゲーム」であることを重々承知しているでしょうから。
私たちも日々、「債務問題をめぐるギリシャ高官の発言が伝えられたことで、市場心理が悪化し…」「欧米市場が堅調に推移し、投資家心理が落ちつきを見せ…」といったニュースに触れています。人々の心理が市場、相場を大きく動かすことを体感しています。
そんな市場のダイナミズムをより深く知りたい、さらには相場で成功する方法論を学びたい、という期待に応えてくれる本があります。『行動ファイナンス~市場の非合理性を解き明かす新しい金融理論』(ヨアヒム・ゴールドベルグ、リュディガー・フォン・ニーチュ著、真壁昭夫監訳)です。
「行動経済学」は、長らく当たり前とされてきた経済合理的な人間像(ホモ・エコノミクス)に疑問を投げかけ、人間心理を分析することによって、経済主体の選択、行動を考える研究分野。とくに金融市場の分析に焦点を当てたのが「行動ファイナンス」です。
監訳者のあとがきにこうあります。
金融市場の参加者も、当然、生身の人間である。血の通っている人間である以上、感情などの心理状態によって大きな影響を受けるのは当然だ。その参加者の心理状態を考えることによって、金融市場の動きをつかもうというのが「行動ファイナンス」である。実際の市場動向で起きている、いわゆる理屈から離れた動きを「行動ファイナンス」ならかなり説明しうるはずだ。「行動ファイナンス」は、今まで、市場関係者や市場研究者が諦めていた、現実と理論のギャップ部分を埋めてくれる有力なツールと考えられる。
(中略)
かなり新しい学問領域といえる。そうであるがゆえに、国内での研究者の数も相対的に少なく、参考文献も豊富にあるわけではなかった。本書の翻訳は、そうした状況を少しでも解消したい、あるいは、まとまった「行動ファイナンス」の参考文献があれば、と考えたことから着手したものである。(222~223ページ)
市場の実務と理論のギャップを埋める一助になりたい。監訳者、訳者たちの強い思いがひしひしと伝わってきます。