効率の悪い毎月分配型投信は
なぜ日本にだけ流行っているのか
2002年に出版された本書の知見、問いかけは、今なお有効です。より重要性を増していると言ってもいいでしょう。
投資マネーが世界を巡り、金融商品がどんどんグローバル化する中にあって、日本の投信市場においてのみ見られる、特異な現象があります。2000年前後から人気に火がつき、今や追加型公募投信の7割強を占める「毎月分配型投信」の存在です。
毎月分配型投信は、分配金が支払われるたびに課税され、分配なしに運用を続けていれば享受できるはずだった「複利効果」を削いでしまう、効率の悪い投資に他なりません。
それ以前に、大きな誤解があります。分配金が支払われることによって、そのぶんファンドの時価である基準価額は下がる、というごくごく基本さえ、十分理解されているとは言えません。分配金は投資元本とは別に付いてくる“利息”のようなものとイメージされ、「分配金の多いファンドほどいいファンド」という勘違いがまま見られます。
なぜ、こうなったのか。日本の投信がガラパゴス化しているのはなぜなのか。『行動ファイナンス』はそんな疑問にも答えてくれます。
たとえば、第3章に登場する、投資家の意思決定の「単純化のヒューリスティックス」(事実の単純化)や「メンタルアカウンティング」(心理勘定)による錯覚などはそのヒントになります。
「単純化のヒューリスティックス」とは、分配金が増えたり、安定的に支払われると、実際に基準価額(フォンドの時価)が上がっていなくとも、運用成果が良く、安定していると勘違いしてしまうこと。「メンタルアカウンティング」のほうは、たとえ資産取り崩しによる分配金であっても、運用によるプラス収入とみなされ、有難味を感じるという人間心理。これらが分配金の偏重という投資家の不合理につながっていると見ることができます。
市場や投資家の「非合理性」が消え去ることはありません。それを解き明かし、処方箋を授ける新しい理論の構築は、最もホットな研究対象という位置づけに変わりはありません。
『行動ファイナンスの実践 ~投資家心理が動かす金融市場を読む』(ジェームス・モンティア著)、『行動経済学入門』(真壁昭夫著)などとの併読もお勧めです。