「それは個人的にも、ということですか……?」
「さあ、それは私の口からは言えません」
「ウェイさんが身に着けているロレックスや自家用車のアウディは、彼のサラリーからすると明らかに分不相応ですね。サプライヤーとの会食後に、大きな土産袋を持ち帰る姿を何度も目にしたことがあります。チョウさんには、何か情報が入ってきていませんか」
「その手の噂は聞いたことがあります。ただ、証拠はありませんよ。それに、ビジネスをスムーズに進める上では、サプライヤーとの多少の付き合いは必要でしょう」
〈チョウさんは何か知っているが、仲間を告発するようなことはしたくないんだな〉
チョウの受け答えからスティーブは悟った。
「それでは、フーナン社との交渉はチョウさんと私でやりましょう。高額の資産の売却が絡むので、経営トップが指揮を執るのが自然だ」
「わかりました。支払いサイト延長の交渉は、このままウェイさんに任せていいのですか」
「その件はウェイさんに任せましょう。難しい交渉だが、彼がこれまで構築してきた信頼関係を最大限活用する必要がありますからね」
「承知しました」とチョウが答えて、2人のミーティングは終わった。
チョウが出て行った後のオフィスで、スティーブは1人思いを巡らせた。
〈一体、誰を信頼すればいいのか〉
彼の脳裏に、ふと健太の顔が浮かんだ。
〈彼のような正義感の強い経営幹部がいてくれたら、楽になるのに〉
そのとき、監査法人に勤めていた麻理のことを思い出し、何か思いついたようだ。麻理をオフィスに招き、ある依頼を伝えた。
「監査法人がeディスカバリーを提供していると聞いたことがあるんだ。KPWの担当者を紹介してくれないか」
eディスカバリーとは、企業で不正などが行われた際にコンピュータ内の関連情報を探索・特定するサービスだ。消去されたデータも調査可能なので、ウェイに対する疑惑を確認できるかもしれない。ウェイのPCに、サプライヤーとの通信履歴が残っていると踏んだのだ。
「わかりました。アドバイザリーサービスという別会社になりますが、eディスカバリーなども提供しています。香港オフィスにいる私の元同僚がお役に立てると思います。彼には至急、こちらにコンタクトするように伝えておきます」
スティーブは麻理に礼を言った。
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