国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。

突然の出向

 ある年の6月半ば、丸山健太は成田発・上海行きの機上にいた。成田の天候は梅雨らしく強い雨が降りしきり、健太を待ち受けている厳しい前途を暗示していた。

〈大変なことになったな……〉

 離陸したばかりだというのに、もうため息が出た。というのも、2週間前に予期せぬ辞令を受け取ったからだ。そこには「海外事業部付 小城山上海電機への出向」とあった。健太は、売上5000億円の総合電機メーカーの本社勤務を解かれ、上海の子会社へ赴任の命を受けたのだった。

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 その日、経営企画部の部長室に呼び出された健太は、辞令を一瞥するや否や、柳澤に食ってかかった。

 健太は正義感が強く、一本気なところがある。正しいと思ったことは主張しないと気が済まない性分なのだ。学生時代に所属していたサッカー部では、そんな性格が他の部員から支持されて主将に選ばれたほどだった。短髪で、中背で骨太の風貌は、その頃とさほど変わっていない。もっとも、社会に出てからは、そのまっすぐな性格が良い方向に働くことばかりではなかった。

「部長、なぜ私が出向なんですか。第一、上海にこんな子会社があったことすら知りませんでしたよ」

「まあ、そうくさるな。人事部から直々に指名されたんだ。喜んで行ってこい。普段、仕事をし足りないとぼやいていたのが聞こえたのかもな」

 経営企画部長の柳澤高志はいつもの明るい口調で丸山を制し、恰幅の良い体で「ほっ、ほっ」と笑い飛ばした。健太はそんな柳澤を尊敬しており、彼の下だからこそ自由に仕事をさせてもらえたと感謝していた。

「経企では、私はお役ご免ってことですか……」

「そうじゃない。人事部に何か考えがあるんだろう。この出向が終わったら、経企に戻してもらうから心配するな」

「一体、どんな事業をしている会社ですか。そこで私に何をしろっていうんですか」

「コンプレッサーを作っているところだが、かなり赤字が出ている。そこの建て直しを君に手伝ってほしいそうだ」