メインバンクとの融資交渉
健太は、CFOのリーとコントローラーの鈴木に、来週の月曜日に控えた銀行との会議の説明資料の相談をしていた。
「リーさん、これまで上海地方銀行とはどんな交渉をしてきたのですか」
「交渉というより相談だね。前任の支店長のときは地方政府の後ろ盾もあって、借入金の枠は問題なく更新できていたんだ。でも支店長が交代してから急に態度が厳しくなった。赤字企業に貸し続けることはできないってね」
「つまり、黒字化する事業計画を提示しろということですか」
「それはもう渡してあるんだ」
リーはそう言って、手元の資料を健太と鈴木に見せた。
中国語で書かれているので詳細は理解できなかったが、今後5年間の売上、コスト、営業利益、当期利益等が記載された事業計画書だった。
「これを見て、銀行は何と言ったのですか」
「根拠がないって、一笑に付されたよ。これまではこの程度の資料で良かったのに」
健太が見る限り、その事業計画はかなり楽観的なものだった。来年度には黒字化する見込みだが、かなり強気な売上成長の見込みにもかかわらず、コストの比率がなぜか減少している。
「これは、誰がどうやって作成したのですか」
「作ったのは私だよ。前の支店長から、黒字の事業計画を作るように頼まれたんだ。これまで内容については1度も質問されなかったから、前と同じように作ったんだ」
〈銀行もろくに審査をしていなかったというわけか〉
「それで、新しい支店長からは、根拠のある事業計画を作り直すように言われたんですね」
「そうなんだ。現実的でありながら黒字化するシナリオを見せてほしいとも言われた。正直、どう作ればいいのかわからない」
「鈴木さんと私で手伝いますよ。任せてください」
経営企画部でこれまでさんざん事業計画を作ってきた健太は、胸を張って答えた。