ヤマトホールディングスの「羽田クロノゲート」(写真左上)の北隣に鹿島が手放した広大な土地が広がる。鹿島にとっては起死回生の取引となったようだ Photo by Satoru Okada

2015年3月期決算で180億円の単体営業赤字に陥ったゼネコン業界の盟主・鹿島。190億円超の特別利益の原資はなんと、大口発注者であるはずの住友不動産の株式売却だった。加えて開発用不動産の売却により、赤字となった営業損益自体も実は、かさ上げされたものだった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)

 6月25日、都内のホテルで開かれた鹿島の株主総会。檀上に居並ぶ役員の名札がなかったことから、株主からの「誰が誰だか分からない」との質問を受けて、鹿島昭一相談役(84歳)や石川洋専務(56歳)が慌てて起立する“珍事”もあった。業績が他の大手ゼネコンに劣るとの指摘に対しては、中村満義社長(現会長。72歳)が挽回の決意を強調。総会は昨年よりやや短い時間でおおむね順調に終えた。

 懸案のアルジェリア高速道路工事の巨額損失を引き当てたため単体営業赤字に陥ったが、連結では151億円の純利益を確保した。それを可能にしたのが、週刊ダイヤモンド2015年6月13日号で詳述した、190億円にも上る有価証券売却益である。

 どこの株式を売却したのか──。総会翌日に公表された有価証券報告書をつぶさに見ると、ある企業の株式を大量に手放していることが分かる。不動産大手の一角を占める住友不動産だ。

 鹿島は14年3月期末時点の株価ベースで、最多の三井不動産に次ぐ200億円近い住不株を保有していたが、15年3月期の保有株の銘柄一覧に住不の名前はない。全てを売り払ったか、ごくわずかしか残っていないからだ。

 昨今、上場企業の資本効率向上が叫ばれているが、ゼネコン業界では相も変わらず、取引先との株式持ち合いを重視する考えが色濃く残る。そうした中、鹿島は大口発注者であるはずの住不の株式売却に踏み切ったわけだ。

 鹿島はここ最近、親密先である三井不の大型工事を相次いで受注しているが、住不関連で目立ったものがないからであろう。さらに住不は、大口発注者の中でも特に金払いに渋く、「鬼の住不、血も涙もない住不」(ある準大手ゼネコン幹部)との恨み節さえ聞かれる。

 アルジェリア問題の解決とともに、国内建築工事の利益率向上が喫緊の課題である鹿島にとって、金払いの悪い住不との関係にこだわる必要性は薄れている。背に腹は代えられなかった面はあるが、あるゼネコン業界関係者は「適切な投資政策だ」と評価する。