>>(上)より続く
行政は国の主権を行使して国内の統治を行う作用のこと、外交は外国の主権を尊重して対等の立場で付き合う作用のこと、そして軍事は外国の主権を制圧するために行う作用のことで、これは武力行使を意味します。多くの国の政府は、行政、外交、軍事の3つの権限を持っています。憲法に誰が軍事権の責任者かが示され、軍事権を行使する場合の手続きも示されています。日本にはそうした規定が一切なく、軍事権を排除しているのは明らかです。
もっとも自衛隊の活動のうち、個別的自衛権の行使を伴う防衛行政は内政の1つ、また外国の後方支援やPKOへの協力は、武力行使に至らない範囲であれば外交協力の1つ、と捉えることができます。すなわち、この2つは解釈によって合憲と言えます。それに対して、集団的自衛権は、外国の防衛に協力する義務を定める根拠条文がない上に、軍事権が政府に与えられていないので、違憲と考えざるを得ません。これまでは、こうした解釈が行われて来ました。
集団的自衛権と個別的自衛権の
行使が重なる場合はどうするか?
憲法学者、首都大学東京 都市教養学部法学系 准教授。1980年生まれ。神奈川県出身。東京大学法学部卒業。同大法学政治学研究科助手を経て、06年から現職。『平等なき平等条項論』『憲法の急所』『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『テレビが伝えない憲法の話』『未完の憲法』(共著)など著書多数。
――木村先生の見解はどうですか。やはり集団的自衛権は違憲でしょうか。
個別的自衛権の行使が合憲か否かは、いずれも解釈の範囲内としてあり得るでしょうが、集団的自衛権の行使を合憲とする解釈は不可能だと思います。ただ、議論を混乱させているのは、集団的自衛権と個別的自衛権の行使とが重なる場合があるのではないかという点です。
日本と外国が同時に攻撃を受ける場合、たとえば、日本が武力攻撃を受けており、同盟国の米国が集団的自衛権を行使して日本を守ってくれるというケースを考えてみます。その場合に、日本の防衛に協力してくれている外国の軍隊が攻撃されたら、それは日本への攻撃に当たりますから、日本が武力行使をしたとしても、それは個別的自衛権の行使であると言えます。
しかし一方で、この場合は外国も攻撃を受けているので、日本が武力を使えばそれは集団的自衛権の行使になるとも言える。このように、個別的自衛権でも集団的自衛権でも説明できるケースでは、武力行使をしても違憲ではないという立場に私は立っています。もっともこの点は、従来からの解釈の結論を確認したものに過ぎませんが。
――このへんは線引きが難しいですね。外国の後方支援においても、実際に戦闘が起きている地域で、自衛隊が冷静に線引きを考えて行動できるかどうか、微妙です。
確かに、外国の後方支援については、いつ一緒に武力行使をせざるを得ない状況になるか、わかりません。これまではそうしたリスクに鑑み、後方支援は非戦闘地域でなくてはいけない、外国の軍隊に弾薬を提供してはいけない、戦闘行為のために発進する戦闘機に給油をしてはいけない、といった色々な制約を設けていました。