「お金」や「利益」への偏見を乗り越えて

藤野 今回の件で村上さんたちの一番の障壁になるものって何ですか。

村上 私たちのイメージですかね。うちの会社が投資先に対して敵対的で短期的な利益を追求している会社と多くの方に思われてしまっていることは大きなマイナス要因だと思います。実際には、私たちは投資先企業と対話しながら中長期的にじっくりアプローチしたいので、投資は全て自己資金で行っていますし、必要なら社外取締役まで派遣してしっかりコミットする姿勢です。今回このようにマスメディアに出始めたのも、私たちの考え方を一つ一つ皆さんにちゃんとお伝えして理解していただきたいという気持ちからです。

藤野 村上さんたちの行動にはこれからもずっと賛否両論が続くと思うんです。そうした中で大切なことは、敵を減らそうとするのではなく、味方を増やすことだと思います。新しいことをすると拒否反応は必ず出てきますし、敵は減らないと思うんです。でもそれを恐れて何も発信しないと敵だけになっちゃう。

村上 私たちの考えを発信し続けること、そして「村上たちは意外とまともだな」と評価されるような実績を積み上げていきたいなと思います。

藤野 そうした意味で村上さんたちが乗り越えないといけない障壁は、「お金」や「利益」などのキーワードに対する世の中の拒否感だと思います。

 たとえば、東芝の不正会計の問題について第三者委員会の報告書が出ましたが、ほとんどのメディアは「利益至上主義が東芝事件を招いた」とその内容を伝えていて、僕はそのことにすごく危機感を覚えています。

 実は東芝の第三者委員会報告書では「利益至上主義」という言葉は全く使われておらず、「当期利益至上主義」という言葉が13回出てきます。第三者委員会が問題視しているのはあくまでも「当期純利益至上主義」であって「利益至上主義」ではないんです。

 企業が利益を追求することは悪ではなく、むしろ義務です。企業が利益を上げられなければつぶれてしまいますし、そうなれば従業員は路頭に迷い、株主も損してしまいます。

 そして、そこで大事なのは当期限りの利益ではなくて持続的な利益です。ところが、東芝は経営者が短期的な視点にとらわれて当期純利益をかさ上げしようとした。それは利益の先食いにもつながるし、「持続性」という点で問題がある、というのが第三者委員会の考え方です。

 経営者が自分の保身のために目先の利益をかさあげしようとする姿勢は正されるべきですが、「利益至上主義」という言葉が一人歩きして利益追求=悪という論調になるのはとても危険なことだと思います。

村上 そういう意味で、父の「お金儲けは悪いことですか」という言葉だけが切り取られて、そこだけ注目されてしまった話に通じますが、日本では「利益」や「お金儲け」という言葉はかなり敏感に反応され、悪く取られてしまいがちです。

 それはたぶん、高度経済成長期の時に皆さんがコツコツ働かれて経済成長して……という歴史的背景の中では「汗水たらして働く」ことが尊いのであって、「お金」や「利益」について考えるのは邪道というような考え方が残っていると思うんです。

 もちろん「汗水たらして働く」ことはとても貴重なことですが、利益も追求しないと会社は存続できないし、税金も払えず、社会保障費もまかなえない。

今回の東芝の件で問題なのは、利益追求したことではなくてルールを破ったことです。そこが注目されずに、「やはり利益追求は悪だ」となってしまうことには私も危機感を覚えます。