子ども時代に基本の13席を覚えた

 入門後、落語を覚える順番は特に決まっているわけではありませんが、一般的に前座のうちは「前座噺」と呼ばれている比較的単純で短い噺を覚えていきます

「前座噺は基礎を覚えるのに適しています。太田道灌の掛け軸を巡る隠居さんと職人の噺、『道灌』を初めに習うことが多いのですが、それは落語によく出てくる年寄りと若者の演じ分けや、台詞を繰り返す“オウム返し”などの基礎芸が入っているからです。僕は前座になる前の子ども時代に13席ほど覚えました」

 子ども時代から「小さんの孫」としてデビューしていた花緑さんですが、中学卒業後、本格的に祖父五代目小さんに入門。前座時代は「ひたすら覚えて喋る、の繰り返し。間違えずに喋ることで精いっぱいでした」

 一般的に前座は、住み込みまたは通いで師匠の家の掃除、洗濯などの雑用、師匠のかばん持ちなどを行いつつ、毎日のように寄席へ通います。寄席では、楽屋や舞台の準備など、バックステージ全般の仕事をこなし、交替で演目の一番初めに「前座」として高座に上がって、噺をします。

「僕が前座の頃は各寄席に前座が2、3人しかいませんでした。なので2、3日に一度は高座に上がる機会がありました。ところが、今は前座の数が増え、各寄席に5人くらいいるので、高座に上がれるのが5日に一度ほどしかない。そうした理由もあるのか、ブームの時は意外と名人が出ない、と言われています」

 また、花緑さんの場合は、師匠である小さん師匠と共に地方公演に同行し、前座として高座に上がるなど、比較的経験を積む機会が多くあったそうです。